このガイドでは、オンライン決済の基礎と、各ビジネスモデルでの留意点をご紹介します。ガイドの前半に決済の基礎的な部分とすべての事業者に共通する事項、その後、一般的なビジネスモデルとして「EC サイトなどのオンライン小売業者」「SaaS およびサブスクリプションのビジネス」「プラットフォームおよびマーケットプレイス」に関する内容が続きます。
また、最も一般的な関連用語とその定義を一覧にまとめましたので、必要であれば、巻末の用語集をご参照ください。
オンライン決済の受け付けをすぐに開始するには、Stripe のドキュメントをご覧ください。
決済の基礎: オンライン決済の仕組み
ビジネスモデルに合わせた決済の詳細に進む前に、オンライン決済の仕組みを把握しておきましょう。具体的には、購入者が代金を支払ってから事業者にたどり着くまでの流れ、決済取引をカード発行会社が処理する方法、システムで発生する費用などを解説します。オンライン決済を構成する基本的な要素を知ることで、独自のビジネスモデルにおける決済の特徴を理解しやすくなります。
オンライン決済の流れ
オンラインでの取引には、以下の 4 者が大きく関わっています。
カード保有者: クレジットカードを所有する人
加盟店: ビジネスのオーナー
アクワイアラー: 加盟店の代理でクレジットカード決済を処理し、カードネットワーク (Visa、Mastercard、ディスカバー、アメリカン・エキスプレスなど) を経由してカード発行会社に決済金額を請求する加盟店契約会社です。場合により、アクワイアラーはサードパーティーと提携して決済を処理することもあります。
カード発行会社: カードネットワークに代わってカード保有者に信用を供与し、カードを発行する会社です。
オンラインでカード支払いを受け付けるには、決済サービスプロバイダー 1 社を経由させるか独自の実装を構築して、この 4 者を連携させる必要があります。
まず、事業用の銀行口座を開設し、アクワイアラーか決済代行業者との提携関係を築きます。アクワイアラーと決済代行業者は、加盟店のウェブサイトから Visa、Mastercard、ディスカバー、アメリカン・エキスプレスなどのカードネットワークに決済金額を送る役割を担います。加盟店は、設定に応じてアクワイアラー (通常はカードネットワークとの関係を維持管理する発行会社) と、決済代行業者 (取引を処理するためにアクワイアラーと提携関係にあるパートナー) を別々に契約することも、両サービスを提供する業者 1 社と契約することもあります。
決済情報を安全に取得するには、情報を適切に保護できるゲートウェイも必要になるでしょう。多くの場合、ゲートウェイはトークン化して決済情報を匿名化し、機密情報を自社のシステムに保存しないようにします。これにより、PCI 標準と呼ばれる業界全体のセキュリティガイドラインに準拠できるようになります。
1 社のプロバイダーが、ゲートウェイ、処理業者、アクワイアラーとしてのサービスを提供することもあります。このようなプロバイダーを利用すると、オンライン決済を効率化できます。また、ペイメントプロバイダーがカードネットワークと直接連携する仕組みを構築することで、サードパーティーへの依存を減らすこともできます。
オンラインで支払いを受け付けると、ゲートウェイはデータを安全に暗号化してアクワイアラーに送信した後、それをカードネットワークにも送信します。次に、カードネットワークがカード発行会社と通信します。カード発行会社は支払いの承認または拒否を決定します (カード発行会社の規則や規制要件により、決済を受ける前に 3D セキュアなどの追加認証を求められることがあります)。カード発行会社は、メッセージをゲートウェイまたはアクワイアラーに送信して、貴社が購入者による支払いを確定できるようにします (たとえば、サイトに「支払いが承認されました」や「支払いが拒否されました」のメッセージを表示します)。
上で紹介したのは、アメリカで米ドルを使って 1 回限りの支払いを行う際のオンライン決済フローです。ビジネスをグローバルに展開する場合、現地で発行会社の提携先を探して、提携関係を構築することが必要になる場合もあります。また、新商品を展開し、購入者に対して継続請求を開始する場合 (サブスクリプションなど) は、クレジットカード番号を受け付けるだけでなく、一定の間隔で支払いを正確に開始し、回収する必要もあります。また、複数の料金モデルへの対応、処理に失敗した支払いを回収する方法の検討、購入者のプラン変更に応じた比例配分 (日割り/秒割り計算) などを実行するロジックの構築が必要なこともあります。
オンライン決済に付随する取引手数料とコスト
この 4 者システムを通じて処理される各取引には、さまざまな手数料が発生します。Visa、Mastercard、ディスカバー、アメリカン・エキスプレス、その他のカードネットワークは、インターチェンジフィーおよびブランドフィーと呼ばれる手数料を設定しています。
一般にインターチェンジフィーは、取引に関連する費用のほとんどを占めます。発行会社は、カード保有者にクレジットや銀行サービスを提供することにより最大のリスクを引き受けるため、この金額はカード発行会社に支払われます。
ブランドフィーは、カードネットワーク自体によって回収されるものであり、追加のオーソリ手数料や国際取引手数料を含むことがあります。また、返金やその他のネットワークサービスにも手数料が発生します。
ネットワークコストはこのような手数料によって構成されています。手数料は、カードの種類、取引の場所、チャンネル (対面またはオンライン)、および加盟店カテゴリーコード (MCC) によって異なります。たとえば、特典付きのクレジットカードによる取引は、非特典付きのカードでの取引よりもネットワーク手数料が高くなります。その理由は、カード発行会社がこれらの手数料を特典プログラムのコスト補助に充てることが多いためです。
Stripe の標準の従量課金制料金は、あらゆるカード支払いに単一で透明な料金を提供するため、お客様は決済費用をより明確に予測することが可能になります。もっと知る。
オンライン決済を受け付けるすべてのビジネス向け
ここでは、オンライン決済を受け付けるすべての事業者に共通する重要なトピックを取り上げます。具体的には、「オンライン決済プロセスを改善してコンバージョンを向上させる方法」「適切な決済手段を追加して顧客を増やす方法」「消費税への対応を効率化して事業拡大に集中する方法」の 3 点です。
コンバージョン率を上げるオンライン決済プロセス
取引は、「利用者により支払い確定」「不正使用の防止」「ネットワークの承認」という 3 つのステップを経て完了します。取引が正常に完了すると、コンバージョンが発生します。
オンライン決済プロセスのステージごとに、潜在的な顧客の数は徐々に減少します。購入フローが長かったり複雑だったりすると、一部の顧客は購入をあきらめてしまいます。不正使用率や取引の平均的な承認率を考慮すると、顧客の数はさらに減少します。
これらのステップ間の相互作用を理解することは、プロセス全体を最適化する上で重要です。購入フロー、不正使用対策、ネットワークの承認を別々のチームが担当し、それぞれが独自の指標で最適化を行っている場合は、特に注意が必要です。たとえば、購入フロー (利用者が支払いを確定するまで) を担当するチームがカートの放棄率を改善するために、利用者情報の入力項目を減らすことがあります。狙いは利用者にかかる負荷を軽減させることにありますが、そうすることによって取引の検証に役立つ請求先住所や郵便番号が取得できないことがあるため、不正使用の増加につながる可能性があります。
ここでは、オンライン決済プロセスの概要と、コンバージョン率を高めるためのベストプラクティスを紹介します。
最適な決済フォームの設計
オンライン決済プロセスは、顧客が商品やサービスを購入するために支払い情報を入力する、決済フォームから始まります。顧客が本人であることを確認するために十分な詳細を収集したいところですが、この段階では購入までの手間を増やさないように注意する必要があります。決済フォームの入力に手間がかかると、顧客が購入を止めてしまうことがあるからです。
決済フォームが複雑な場合、カートに商品を入れ、購入意思がある最も有望な見込み顧客から売上を得られなくなるリスクがあります。実際、決済フローが難しすぎると、87% の顧客が購入を断念しています。
決済フォームの完了率を向上させるためには、まず決済プロセスを顧客の視点から確認し、カート放棄につながりそうな負担がないかを調べます。サイトの読み込みにかかる時間、フォームのフィールド数、決済フォームが自動入力に対応しているかなどに注意してください。
最適な決済フォームは、顧客の環境に合わせて変化するものです。ベストプラクティスの例として、モバイルデバイスの小さな画面に合わせて自動的にサイズを変更する、顧客がカード番号を入力する際に数字キーパッドを表示するなど、レスポンシブな決済フォームを提供することが挙げられます。Apple Pay や Google Pay などのモバイルによる決済手段に対応することで、手動によるデータ入力の手間を省くことができます。
事業を国際的に展開する際は、各市場に合わせた決済フォームを提供する必要があります。顧客の現地通貨で決済を受け付けることがその第一歩ですが、地域固有の決済手段に対応して最適なサービスを提供することも必要です。たとえば、オランダの顧客の半数以上は、銀行口座からビジネスに直接送金できる、iDEAL の使用を希望します。
カード番号は顧客の地理的な位置も示します。その特徴を利用し、決済フォームの項目を国に応じて動的に変更することで、適切な情報をキャプチャーできるようになります。たとえばイギリスのカードだと認識した場合は、郵便番号の項目をフォームに追加する必要があります。アメリカのカードだと認識した場合は、フィールドの郵便番号をアメリカの形式に変更します。
Stripe Checkout は、コンバージョン率を高めるように設計されたドロップイン (一時的な) 決済ページです。必要に応じてモバイルウォレットが動的に表示されます。また、15 の言語に対応しているため、顧客はパーソナライズされた適切な決済フォームを使用できます。もっと知る。
オンラインリスクの管理
次のステップでは、取引が不正使用かどうかを評価します。不正な支払いの場合、大半は不正使用者が正当な顧客を装って、盗んだクレジットカードとカード番号を使用しています。
たとえば、まだ盗難が報告されていないクレジットカードを不正使用してウェブサイトで購入すると、支払いが問題なく処理されることがあります。その後、カード保有者がカードの不正使用に気付き、チャージバックを申請することでカード発行会社にその支払いに対する異議を申し立てます。支払いの有効性に関する反証資料を提出してチャージバックについて争うこともありますが、不審請求の申請では、カードネットワークが顧客に有利な判断を下す傾向があります。貴社による不審請求の申請で主張が認められない場合、不正使用による取引額は失われます。ビジネスオーナーは、カード発行会社によるカード支払いの差戻し費用として、チャージバック手数料も支払う必要があります。
チャージバックはオンライン決済につきものですが、これを管理するには、まず、チャージバックの発生防止が最善の方法です。発生の防止には、ルールベースのロジックと機械学習の 2 つの主要なアプローチがあります。
ルールベースの不正使用検出
ルールベースの不正使用検出は、「x が発生したら y を行う」というロジックを作成して運用され、不正使用アナリストが継続的に管理します。たとえば、特定の国、IP アドレス、または特定金額を超える取引をすべてブロックするといったロジックです。しかし、このロジックは厳格なルールに基づくため、隠れたパターンを認識することができず、また、定義されたパラメータ以外の情報を分析することで変化する不正使用の方向性に適応することもできません。このため、アナリストは先を見越してではなく、不正使用を検出してから新しいルールを手動で作成する、後追い作業をしています。
不正使用の検出における機械学習の使用
一方、機械学習ベースの不正使用管理では、取引データを使って、学習と適応のためのアルゴリズムをトレーニングできます。機械学習モデルには、人間のレビュー担当者の動作を模倣するものもあれば、数百万ものデータポイントを使ってトレーニングされるものもあります。こうしたモデルは、正当な取引と不正使用の疑いのある取引を区別する方法を学習します。モデルの中には自己トレーニングができるものもあり、ルールベースのロジックよりも拡張性と効率性に優れています。
たとえば、閲覧動作は正常なものの、疑わしい IP アドレスの顧客がサイトから何かを購入するとします。機械学習は、このようなシグナルのそれぞれにどの程度の重みを付けるかを決定します。たとえば、IP アドレスだけに基づいて取引を拒否すべきでしょうか。ルールベースのシステムでは、その場所からの取引がすべてブロックされる可能性があります。しかし、機械学習モデルでは、場所と使用可能なその他の情報をすべてに重みづけをして特定の取引がチャージバックを引き起こす可能性を判断し、正当な取引と不正使用を区別できます。
ルールベースのロジックと機械学習による不正使用管理という 2 つのアプローチを組み合わせることにより、カスタマイズが可能で強力なソリューションを実現できます。機械学習の高度な能力を活用できるだけでなく、アプローチの仕方をカスタマイズしてビジネスニーズに特化したロジックを記述することもできます。たとえば、一部のユーザーのリスクレベルや、これらのユーザーが購入する商品に基づくカスタムルールを設定できます。
詳細については、機械学習を用いた不正使用検出に関するガイドをご覧ください。
Stripe Radar は、不正使用を検出および防止するための最新のツール一式です。その機能の核となっているのは適応型機械学習で、アルゴリズムによってすべての取引の不正リスクを評価し、適切な対応を取ります。Radar は、Stripe の利用料金に組み込まれており、無料でご利用いただけます。ユーザーは Radar for Teams にアップグレードして、独自のルールベースのロジックを設定し、不正使用に対応するプロフェッショナルのための他の強力なツールを使用することもできます。
ネットワーク承認率の向上
オンライン決済プロセスの最後のステップは、カードネットワークによる承認、すなわちカード発行会社に支払いを正常に処理してもらうことです。
顧客が支払いを確定すると、支払いリクエストがカード発行会社に送信されます。顧客の利用可能残高、取引メタデータのフォーマット、場合によってはシステムのダウンタイムなど、カード発行会社はさまざまな要因をもとにリクエストを承認または拒否します。貴社で行われる取引の承認率が高いほど、正常に処理できる取引も増えます。
決済フォームで追加データやセキュリティコード、請求先住所、郵便番号などの詳細を収集することで、取引に関する補足情報がカード発行会社に与えられ、不要な支払い拒否を減らし、正当な取引の承認率を高めることができます。
Stripe は、ネットワークへの直接の組み込みや、支払い拒否の理由に関する詳細なデータとインサイトを提供してくれる業界内のパートナーシップを生かして、ビジネスのネットワーク受け入れ率を自動的に改善しています。さらに、これを利用して機械学習モデルを構築し、支払いのメタデータを更新する最適な方法を特定することで、受け入れ率を高めています。もっと知る。
グローバルな決済手段
アメリカでは、オンラインでの決済手段としてクレジットカードが一般的ですが、アメリカ以外の消費者の 40% は、銀行振込やデジタルウォレット (Alipay、WeChat Pay、Apple Pay など) といった、カードやデビットカード以外の決済手段の使用を希望しています。世界の消費者が利用したい決済手段を提供しないだけで、売上を失う可能性があります。
グローバルな顧客ベースから利益を上げるには、事業を展開している国で最も普及している決済手段を提供する必要があります。一般的な 5 つの決済手段タイプは、次のとおりです。
クレジットカードでは、顧客はカード発行会社から資金を借りて、毎月借りた金額を全額支払うか、利息を付けて返済できます。デビットカードの場合、クレジット限度額を使用するのではなく、普通預金口座からお金が直接引き落とされることで顧客は支払いを行います。
デジタルウォレットには Apple Pay や Google Pay などがあります。顧客がカードや銀行口座を関連付けることで、商品やサービスの支払いを電子的に行うことができます。さらにデジタルウォレットでは、アプリに直接資金をチャージ (トップアップ) することもできます。
口座引き落としと銀行振込では、顧客の銀行口座から直接資金が移動します。口座引き落としでは、顧客の銀行情報を収集し、口座から資金を引き出します (例: アメリカの ACH)。銀行振込では、顧客の銀行口座に関連付けられることで、そこから金額が送金されます (例: 電信送金)。ほかに、ドイツの Giropay やオランダの iDEAL のように、銀行で追加レイヤーとして機能し、送金を円滑化する決済手段もあります。デジタルウォレットと似ています。
後払いは、利用が拡大途中にある決済手段で、顧客にオンライン決済のための即時融資を提供します。一般に融資は一定期間にわたり固定額の分割払いとして返済されます。後払いには、Afterpay、Klarna、Affirm などがあります。
現金ベースの決済手段は OXXO や Boleto などの企業が提供しています。顧客は銀行口座を使わずにオンラインで買い物できます。商品やサービスの代金を支払う代わりに、顧客は取引参照番号が記載されたスキャン可能な支払い情報を受け取ります。それを ATM、銀行、コンビニエンスストア、スーパーマーケットなどに持って行き、現金で支払います。現金払いの参照番号と購入参照番号が一致すると、ビジネスは支払いを受けるので、商品を出荷できます。
詳細については、決済手段ガイドをご参照ください。
Stripe を利用すると、一度の導入でさまざまな決済手段に対応できます。もっと知る。
消費税、VAT、GST への対応を効率化
インターネットビジネスは、130 カ国以上および米国の大部分の州で間接税を徴収する必要があります。しかし、コンプライアンスの維持は難しく、特にビジネスが成長している場合はなおさらです。税法や税率は絶えず変化しており、販売する商品や場所によっても異なります。このような複雑な状況を無視していると、 税金の未徴収に加えて、追徴金と延滞金が課せられるリスクがあります。
間接税の名称は、世界各地で異なります。アメリカでは売上税、ヨーロッパでは付加価値税 (VAT)、オーストラリアとカナダでは物品サービス税 (GST)、日本では消費税と呼ばれます。これらの税金を徴収するプロセスは大きく異なりますが、結果は同じであり、最終顧客が税金を支払います。
税金の取り扱いは、販売する製品が物品かデジタル商品かに応じて異なります。物品の場合、税金の取り扱いは、発送元と配送先の場所、および各管轄区域におけるその製品のカテゴリーによって決まり、市、州、国ごとに大きく異なります。デジタル商品 (オンラインコースやウェブサイトのメンバーシップなど) の場合も同様に複雑です。アメリカでは、40 州がデジタル商品に課税しており、EU では、特定の条件に該当する場合に課税対象となります。
販売する商品を問わず、売上税、VAT、GST に準拠するには、以下の事項について把握しておく必要があります。
- 税金の徴収を義務付けられている場所とタイミング
- 税金を徴収するための登録方法
- 製品やサービスごとに請求する必要がある税額
- 徴収した税金の申告と納付の方法
これらの税金について詳しくは、以下のガイドをご覧ください。
Stripe Tax は、アメリカの全州および 30 カ国以上で、物品とデジタル商品・サービスの両方に対する消費税、VAT、GST の計算と徴収を自動的に行います。もっと知る。
EC サイト、オンライン小売業者向け
このセクションは、Web サイトやモバイルアプリに加え、対面での小売販売をご希望の場合にご覧ください。
オンラインのみで事業を開始した小売業者が、実店舗での対面販売で実世界にビジネスを拡大し、成功を収めるケースが増加しています。購入の 90% 以上が今も対面で行われている現状を踏まえると、実店舗へのビジネス拡大はデジタルビジネスが新たな収益源を獲得する可能性を秘めています。
しかし、そこで課題となるのが、オンライン決済と対面決済のデータ統合です。顧客はどのチャネルでも同じ方法でビジネスと関わることを期待しているので、購入方法は一貫性があってブランドに合っている必要があります。たとえばユーザーは、割引コードやプロモーションが、オンラインと対面販売の両方に適用されることを望むかもしれません。
オンラインビジネスを拡大して対面販売に対応する場合、以下の 2 点を理解しておく必要があります。
1. 既存のインフラストラクチャーを活用する
多くの場合、小売業者がオンライン販売と対面販売の双方を扱う際は 2 つの別の決済プロバイダーを利用しなければなりません。これには 2 回の導入と、2 つの個別のアカウントが必要になり、さらに業務開始時の作業が 2 倍になり、財務データの照合の管理が難しく、各アカウントで顧客データがサイロ化されがちです。
この対策として、このように新しいベンダーを利用するのではなく、オンライン決済ですでにセットアップしている既存の決済インフラを活用します。既存インフラの活用によって時間とリソースが節約できるだけでなく、レポート作成が簡単になり、統合性の高い顧客体験を構築できます。
これにより、顧客がスマートフォンで購入する場合でも、実店舗で購入する場合でも、シームレスな決済エクスペリエンスが生まれます。たとえば、顧客はサブスクリプションを対面販売で開始し、オンラインで継続できるようになります。実店舗で使用した決済手段は顧客のオンラインのプロフィールに保存され、顧客はオンラインで詳細を更新したり、定期支払いの頻度を変更したりすることができます。
2. IC カードとモバイルウォレットに対応する
磁気ストライプカードは、不正使用者が簡単にコピーでき、顧客の決済情報の暗号化には追加ステップが必要になるため、ビジネスリスクが高くなります。こうした事情を背景に、セキュリティが強化され、不正使用が発生した際に課せられる責任から事業者を保護する EMV チップカード (IC カード) が、ここ数十年のグローバルスタンダードとなってきました。
IC カードへの移行は 2015 年にアメリカで開始され、現在ではカード取引の大半に IC カードが使用されています。しかし、いまだに磁気ストライプカードに対応した旧型のカードリーダーを使用している事業者も存在します。対面決済を受け付けるハードウェアを評価する際は、IC カードに対応可能な新しいカードリーダーを選択することが重要です。
また、対面取引については、Apple Pay や Google Pay などのモバイルウォレットへの対応も検討する必要があります。IC カードと同様に、モバイルウォレットは支払い情報を安全に暗号化し、不正取引に関連する事業者の責任を最小化します。モバイルウォレットも決済サービスを向上させるので、顧客にとって取引がより便利になり、効率化できます。
Stripe Terminal は、柔軟な開発者向けツール、認証済みのカードリーダー、クラウドベースのハードウェア管理により、オンラインとオフラインのチャネルの統合をサポートします。
SaaS およびサブスクリプション企業向け
継続して顧客に請求する場合や、保存した決済情報を使用する場合には、このセクションをお読みください。
経常収益の管理には、支払いの開始と回収の方法、さまざまな料金体系モデルへの対応などに関して、複雑な側面が多数存在します。顧客の支払い情報を保存し、設定された間隔で正確に請求することは必須です。
この設定には 2 つの方法があります。独自の決済システムを構築する方法と、既存のソフトウェアを購入する方法です。いずれの方法でも、請求システムがウェブまたはモバイルの決済フローから注文を受け付け、料金モデル (固定料金請求や段階的請求など) に基づいて顧客に正確に請求し、顧客が希望する決済手段を使用して支払いを回収する必要があります。また、解約率、月間経常収益、その他の重要なサブスクリプション指標など、継続的ビジネスにとって重要なインサイトを得る機能や、顧客管理システムや会計システムを組み込む機能も必要です。
一から独自のソフトウェアを構築するか、既存のものを購入するかを決定する際には、機会費用を考慮してください。請求システムの構築と保守に必要な継続的なエンジニアリング・リソースと、ビジネスの他のニーズとの比較も必要です。
ここでは、SaaS とサブスクリプション支払いに関する 3 つの検討事項を紹介します。
1.柔軟なサブスクリプションロジックを設定する
サブスクリプションのロジックは、時間ベースのルールと料金ベースのルールから構成されます。両方を組み合わせることで、あらかじめ決められた期間に基づいて顧客に正しく請求できます。商品が 1 つのみで、ソフトウェアのサブスクリプションが月額 $25 のようなシンプルな料金体系の場合、月ごとに料金が変化しないため、このロジックは請求システムで簡単に設定できます。
時間の経過とともに、新しい商品やプロモーションを追加してビジネスを拡大することもあります。定額料金、ユーザー数ベース、従量制サブスクリプション、段階制料金、フリーミアム、無料トライアルなど、さまざまな料金モデルを試しながらこの成長に対応できるサブスクリプションロジックが必要です。また、バンドルや割引を提供する機能も必要になります。
サブスクリプションのロジックは、顧客が随時プランを変更できるように柔軟である必要があります。顧客が月の途中でより安価なプランへの変更を希望する場合は、両方のプランを比例配分 (日割り / 秒割り計算) し、その後顧客に正しい金額を請求しなければなりません。
2.請求のニーズを考慮する
高額料金の請求や、1 回限りの請求の場合、顧客は一般に請求書の受け取りを希望します (どちらも、ほかのビジネスを顧客とする SaaS 企業によく見られるケースです)。
請求書を送付するためには、作成プロセスがどのようなものにするべきかを考えます。請求書のラインアイテムは同じでしょうか。それともそれぞれをカスタマイズする必要があるでしょうか。事業を展開している国によっては、さまざまな請求書要件に従う必要もあります。たとえば、顧客レベルまたはアカウントレベルで、連続した請求書番号を使用したり、決まった請求書プリフィックスを使用しなければならないことがあります。
次に、顧客に請求書を送信する方法が必要です。請求書を手動でメール送信するのか、それとも請求書作成ソリューションで自動化できるのかを考えてみましょう。
詳細については、オンライン請求処理の基本ガイドをご覧ください。
3. 意図しない解約を最小限に抑える
ほとんどの SaaS およびサブスクリプションの企業は、意図しない解約の問題に直面しています。これは、顧客に支払いの意思があるにも関わらず、カードの有効期限切れや、残高不足、失効したカード情報が原因で支払いが失敗する問題です (サブスクリプションの請求書の 9% は、意図しない解約が理由で最初の支払いを処理できません)。
支払いの失敗が毎月数件のみであれば、各顧客に電話またはメールで連絡して状況の修正を依頼するのは簡単です (新しい決済手段を使用するか、支払い情報を更新するなどして修正してもらいます)。しかし、ビジネスが成長して、処理できない数百件の顧客の支払いを管理する必要がある場合は、このアプローチでは管理が困難になります。
顧客に連絡するための拡張可能な方法は、支払いが拒否されるたびに、支払い失敗メールを自動的に送信することです。
顧客に連絡するだけでなく、支払いを直接再試行することもできます。多くのビジネスは、7 日おきなど、支払いが失敗した取引を一定のスケジュールで再試行します (このプロセスは督促と呼ばれます)。さまざまな督促の頻度を試して自社に最も効果的な方法を検討するほか、督促プロセスを自動化して、利用者の希望に合わせて調整できる決済プロバイダーを探してみましょう。
Stripe Billing は、エンドツーエンドの請求ソリューションを提供します。サブスクリプションロジックとインボイスを作成して管理し、対応しているあらゆる決済手段を受け入れ、スマートなリトライロジックで意図しない解約を減らすことができます。
プラットフォームおよびマーケットプレイス向け
Shopify などのように、顧客がエンドユーザーから直接支払いを受けられるようにするビジネスモデルのソフトウェアプラットフォーム、または Lyft などのように利用者が支払った代金を売り手またはサービスプロバイダーに入金するようなビジネスモデルのマーケットプレイスは、このセクションをお読みください。
プラットフォームやマーケットプレイスは、代理として決済を受け付け、売り手やサービスプロバイダーに入金するため、最も複雑な支払い要件がいくつか適用されます。そのため、売り手の身元確認、資金取引の管理コンプライアンス、各支払いからのサービス料金の回収、必要に応じた IRS への 1099 の申告など、特有の検討事項が数多くあります。
複雑さが増す一方、顧客に支払い機能を提供することにより、自社のプラットフォームまたはマーケットプレイスを差別化でき、売り手やサービスプロバイダーに付加価値をもたらすことができます。売り手やサービスプロバイダーは時間がかかる事業者アカウントの申し込みや、決済を受け付けるためのコードの記述に煩わされることなく、ビジネスを迅速に立ち上げることができます。
従来、支払い機能を追加するには、ライセンスを取得し、カードネットワーク (Visa や Mastercard など) に支払いファシリテーターとして登録し、そのステータスを維持する必要がありました。買い手と売り手の間で資金を移動することは資金の流れをコントロールすることと見なされるため、カードネットワークは厳しい規制を適用します。このプロセスには数カ月 (場合によっては数年) を要し、事前ならびに継続的に数百万ドルの費用がかかります。
しかし現在では、プラットフォームやマーケットプレイスは、自身を支払いファシリテーターとして登録しなくても、顧客のためにカスタマイズされた支払い機能を追加して、支払いから収入を得るためのオプションが存在します。
ここでは、プラットフォームまたはマーケットプレイスに支払いを追加する際に考慮する必要のある 2 つの機能を紹介します。
1. アカウント登録中にユーザーを確認する
売り手やビジネスの代わりに決済を受け付ける前に、これらの売り手やビジネスを支払いシステムに登録し、身元を確認する必要があります。このステップは、顧客確認 (KYC) 法や制裁遵守のためのスクリーニングの要件などにより複雑なステップとなっており、違反すると罰則や罰金が科せられます。国ごとに異なる政府の規制に加え、Visa や Mastercard のようなカードネットワークには独自の情報収集要件があり、これらの要件は定期的に更新されています。
これらの情報要件とユーザー体験のバランスを取るのは容易ではありません。一方で、プラットフォームがマネーロンダリングやテロリストの資金などの不正目的で使用されないようにするため、できるだけ多くの情報 (氏名、メール、生年月日、アメリカの場合には社会保障番号の最後の 4 桁、電話番号、住所など) を収集したいと考えます。また、規制当局や金融パートナーからの罰則も避ける必要があります。
その一方で、ユーザー体験を競合他社よりも優れたものにしたいと考えます。そのためには、負担にならないアカウント登録体験を提供する必要がありますが、これは詳細な情報の要求とは必ずしも両立しません。
負担を取り除くためには、段階的にデータを収集し、可能な限りユーザーのためにフィールドを自動入力することを検討してください。たとえば、売り手やサービスプロバイダーの税金情報は、IRS 申告しきい値を超えたときにのみ要求します。また、氏名や住所をすでに収集済みの場合は、これらの情報をフィールドに事前入力します。
2. 資金を移動するためのさまざまな方法をサポートする
ユーザーへの支払いは、単に A 点から B 点に資金を移動するだけではありません。プラットフォームのサービス手数料を回収し、売り手間で売上を分割して振り分け、売り手の銀行口座に入金を行うタイミングを管理する必要があります。
たとえば、自社の E コマースプラットフォームで、利用客が売り手から $50 の購入をしたと仮定します。この取引でのお金の移動を考えると、「プラットフォーム」「売り手またはサービスプロバイダー」「買い手またはエンドユーザー」の 3 者が関係します。売り手に支払いをする前に、プラットフォーム手数料を回収し、次に、残りの金額を売り手に入金する方法とタイミングを考えなければなりません。商品やサービスの受領時に直ちに入金しますか。それとも毎週資金を集計して入金しますか。また、入金するための銀行口座情報は正確でしょうか。
資金を移動する方法は、規制に準拠したものでなければなりません。たとえばアメリカでは、46 州で他の人の代理として資金を移動するためには州のライセンスが必要とされ、ヨーロッパでは、PSD2 法により支払い仲介業者にライセンスが必要とされます。規制当局によってお客様が資金送金会社または支払い仲介業者と見なされ、ライセンスを取得していない場合には、罰金を科されたり、または業務停止を命じられたりする可能性があります。
自社のビジネスモデルに基づき、以下のようなさまざまな資金の移動方法に対応する必要があります。
- 一対一: 1 人の顧客が支払いを行い、1 人の受取人が入金を受ける (例: ライドシェアサービス)。
- 一対多: 1 つの取引が複数の売り手や受取人の間で分割される (例: 買い物客が複数のオンラインストアからの複数商品を 1 つの「カート」に入れて購入する小売マーケットプレイス)。
- 売上の保留: プラットフォームは顧客から代金を受け取り、受取人に入金を行う前にリザーブとして保持する (例: イベントの開催後にのみ受取人に入金を行う、チケットプラットフォーム)。
- アカウント引き落とし: プラットフォームは、アカウント引き落としまたは取引差戻しを行い、売り手やサービスプロバイダーから売上を引き出す (例: ビジネス顧客から月次のストア維持手数料を引き出す E コマースプラットフォーム)。
- サブスクリプション: プラットフォームは、売り手がエンドユーザーから継続的な支払いを回収できるようにする (例: 慈善事業が継続的寄付を受け付けられるようにする SaaS プラットフォーム)。
Stripe Connect は、プラットフォームやマーケットプレイスが売り手やサービスプロバイダー、顧客に簡単に支払いを行えるようにします。アカウント登録および本人確認 をサポートし、不正防止機能を搭載して 135 以上の通貨と世界各国の現地の決済手段に対応しており、ユーザーへの入金や、売上フローの追跡も可能です。
追加資料
このガイドではオンライン決済の基本を説明しましたが、ご自身で決済を設定する際の詳細をご理解いただけましたでしょうか。
このガイドは、オンライン決済の基礎を紹介するシリーズの第 1 弾です。今後のガイドでは対面払いや継続払いなどの基本のほか、支払い拒否や入金管理などの少し高度なトピックについても説明します。
その前に、参考となる追加資料をいくつかご紹介します。
決済を受け付けるあらゆるビジネス向け
オンライン小売業者向け
SaaS 企業向け
プラットフォームとマーケットプレイス
- 複数の当事者間で支払い経路を選定する方法
- ヨーロッパにおける PSD2 のマーケットプレイスとプラットフォームへの影響
- プラットフォームとマーケットプレイスのための支払いファシリテーションガイド
- ソフトウェアプラットフォームのためのリスク管理基本ガイド
決済に関する用語集
この用語集は、決済業界におけるもっとも一般的な用語を定義したものです。
アクワイアラー
アクワイアリング銀行とも呼ばれます。アクワイアラーは、加盟店の代わりにクレジットカードまたはデビットカードによる支払いを処理する銀行または金融機関であり、カードネットワークを通じて支払いをカード発行会社に振り分けます。
銀行振込
口座引き落とし (顧客の銀行情報を収集し、口座から資金を引き落とす) を指すことも、銀行振込 (顧客の銀行口座にリンクして、顧客が資金をお客様に振り込む) を指すこともあります。
カード保有者
クレジットカードまたはデビットカードの所有者。
カードネットワーク
加盟店とカード発行会社の間で取引を処理し、クレジットカードがどこで受け付けられるかを管理します。カードネットワークはネットワークコストも管理します。例えば、Visa、Mastercard、ディスカバー、アメリカン・エキスプレスなどが挙げられます。
チャージバック
チャージバックは不審請求の申請とも呼ばれ、カード保有者が支払いについてカード発行会社に異議を唱えると発生します。チャージバックのプロセス中、加盟店には、購入を行った人物がそのカードを所有し、取引を承認したことを証明する責任があります。
チャージバック手数料
アクワイアリング銀行がカード支払いを差戻したときに、加盟店に発生する手数料。
デジタルウォレット
カードまたは銀行口座を関連付けたり、資金をアプリに直接格納したりすることにより、顧客が商品やサービスに対して電子的に支払いができるようにします。例として、Apple Pay、Google Pay、Alipay、WeChat などがあります。
不審請求の申請
「チャージバック」の定義を参照してください。
4 者システム
カード保有者、加盟店、アクワイアラー、カード発行会社、という支払い処理に関連する 4 者。
不正使用
あらゆるタイプの偽の取引または違法取引。一般に誰かがカード番号または銀行口座情報を盗み、その情報を使用して不正な取引が行われます。
インターチェンジ
カード支払いの処理について、カード発行会社に支払われる手数料。
カード発行会社
消費者にクレジットカードまたはデビットカードを発行する会社。
加盟店カテゴリーコード (MCC)
加盟店が提供する商品またはサービスのタイプによってビジネスを分類する 4 桁の番号。
ネットワーク承認率
カード発行会社によって承認または拒否される取引の割合。認証情報が古い、不正使用の疑いがある、または残高不足などの理由から支払いは拒否されます。
ネットワークコスト
インターチェンジフィーとブランドフィーの合計。
ペイメントファシリテーター
従来、決済機能を提供するには、プラットフォームまたはマーケットプレイスが、カードネットワークに支払いファシリテーター (payfac) として登録し、そのステータスを維持する必要がありました。これは、決済機能を提供することが、買い手と売り手の間で資金フローを管理することと見なされていたためです。今日では、ペイメントファシリテーターとして登録しなくても、大半のプラットフォームやマーケットプレイスに必要な支払い機能を簡単に追加できるようになりました。
ペイメントゲートウェイ
加盟店のサーバーでクレジットカード情報を暗号化し、それをアクワイアラーに送信するソフトウェア。ゲートウェイサービスとアクワイアラーは多くの場合、同じ組織です。
決済手段
消費者が商品やサービスに支払いをする方法。決済手段には、銀行振込、クレジットカードまたはデビットカード、およびデジタルウォレットが含まれます。
決済代行業者
加盟店、カード発行会社、アクワイアラーの間で支払い情報を送信し、クレジットカード取引を円滑に進めます。決済代行業者は通常、ペイメントゲートウェイから支払い詳細を受け取ります。
PCI データセキュリティ基準 (PCI DSS)
カード保有者データおよび/または機密情報である認証データの保存、処理、または転送に関係するあらゆる組織に適用される情報セキュリティ基準。
ブランドフィー
カードネットワークによって徴収される手数料。オーソリ手数料やサービス手数料など、1 回の取引で複数のブランドフィーが発生することがあります。