春秋(9月28日) 安倍元首相国葬 9月28日 日本武道館を抱える北の丸公園の一角に、吉田茂元首相の銅像がある。戦後初の国葬後に建てられ、木立の間で静かにたたずんできた。それがここ数日、急に身辺が物々しくなった。警官が絶えず見回り、ヘリが舞う。近くのお堀には警視庁のダイバーが潜っていった。 ▼とられた警備態勢は吉田氏の倍以上という。列島を震わせた銃声から2カ月余、戦後2例目となる安倍晋三氏の国葬が厳戒下で営まれた。会場の武道館だけでなく、北の 春秋(9月28日)
春秋(9月27日) 9月27日 公園や川の土手を曼珠沙華(まんじゅしゃげ)が彩ったお彼岸も、昨日で明けた。本来ならナシにカキといった実りを供え、故人を静かにしのぶはずが、今年はどうも気持ちの収まりがつかなかった感じだ。今日の安倍晋三元首相の国葬をめぐって賛否が激しく対立しているゆえだろうか。 ▼人々の間に深い分断が生じているようだ。本社とテレビ東京による今月の世論調査では、国葬に反対が60%、賛成が33%と、ほぼ2倍の数字。他 春秋(9月27日)
春秋(9月26日) 9月26日 高速増殖炉の真上をホバリングする大型ヘリコプター。犯人の要求は国内の全原発を使用不能にすること。拒めばヘリは墜落し原子炉を直撃するという。2015年に映画になった東野圭吾さんの「天空の蜂」は原発の「安全神話」の虚をついたサスペンス小説である。 ▼刊行されたのが1995年。当時はさほど話題にならなかったようだ。が、福島第1原発の事故後に改めて読み返すと、作家の慧眼(けいがん)に感服した。モデルにな 春秋(9月26日)
春秋(9月25日) 9月25日 自分に届いた郵便物を手に新入社員が先輩に尋ねる。「これ何でしょう」「召集令状じゃないか」「召集令状って、いったい何です?」。小松左京さんのSF小説「召集令状」はそんな会話で始まる。舞台は終戦から18年後。戦争を知らない若者が町に増え始めた頃だ。 ▼受け取った男らは入隊日にふっと姿を消し、やがて戦死公報が届く。戦争を続けるもう一つの日本があるかのようだ。登場人物が諦めて言う。「それ(戦争)が始まっ 春秋(9月25日)
春秋(9月24日) 9月24日 東日本大震災の津波で壊滅的な被害をうけた宮城県の南三陸町。10月1日開館の震災伝承館「南三陸311メモリアル」を、おととい一足はやく見学した。「命を守ることの難しさを伝える。目的はこれにつきる」。佐藤仁町長らの強い思いで完成にこぎつけた施設だ。 ▼町民たちの壮絶な体験をもとに「自分ならどうするか」を来館者に考えてもらう。津波到達まで最短5分。避難に10分かかる高台に逃げるか、屋上に上がるか。児童 春秋(9月24日)
春秋(9月23日) 9月23日 歌舞伎などの芝居で背景の山や川、橋などを描いた大道具を「書き割り」と呼ぶ。貧乏暮らしで家財道具を売り払った男が、近所の画家に豪華な家具などを描いてもらい家の壁に貼る。武道の腕があるように見せるため、ついでにヤリも。古典落語「だくだく」である。 ▼ある日、この部屋に泥棒が忍び込む。タンスの引き出しに手をかけたのだが、絵であるから開かない。住人は物があるつもりで暮らしているのか。それなら、こっちも盗 春秋(9月23日)
春秋(9月22日) 9月22日 「信なくば立たず」。日本の政治家はこの言葉を好んでよく使う。岸田文雄首相も1年あまり前に自民党の総裁選に立候補したときにこのフレーズを使い、さらにこう語った。「政治の根幹である国民の信頼が崩れている」。立て直したいとの決意の表れだったはずだ。 ▼岸田内閣の支持率が、驚くスピードで下がっている。旧統一教会と自民党との関係や安倍晋三元首相の国葬に対する厳しい評価が響き、秋の日が落ちる速さで国民の心が 春秋(9月22日)
春秋(9月21日) 9月21日 記者になりたてのころ、よく原稿の書き方を注意された。今も覚えているのは抽象的な表現の乱用である。「非常に長い行列」ではなく、「50メートルの行列」と書くべし。具体的な数字を挙げてこそ、人に正確な状況を伝えることができる。記事だけのことではないだろう。 ▼もっとも、何でもデータで示した方が分かりやすいとは限らない。台風や大雨はそのひとつではなかろうか。「中心の気圧910ヘクトパスカル、最大風速は… 春秋(9月21日)
春秋(9月20日) エリザベス女王死去 9月20日 太平洋戦争の火ぶたを切ったのは、真珠湾攻撃ではなかった。その約1時間前に、英領マレー半島への上陸を図る日本軍と英国軍の戦闘が始まっている。新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズはマレー沖で日本の攻撃機に沈められ、チャーチル首相に強い衝撃を与えた。 ▼英国の対日戦の記憶は、反日感情としてたびたび蘇(よみがえ)った。終戦から半世紀以上がたった1998年、天皇だった上皇さまが訪英された際も、元戦争捕虜らが 春秋(9月20日)
春秋(9月19日) 9月19日 詩人の鈴木志郎康さんが「放りだされている『老い』」というエッセーの中で、さまざまな高齢者に自らの人生を語ってもらった体験を振り返っている。経営者。農家の主婦……。「普通の老人たちなのに、どの人の場合も私は感動しないではいられなかった」と記す。 ▼同じような感想を高齢者に接する医療関係やボランティアの人々からもしばしば耳にする。「人間というのは、最後には『ことばを語る』というところに行き着く存在な 春秋(9月19日)