OKR
OKR(Objectives and key results)は、個人や組織の目標設定のためのフレームワークである。元インテルCEOのアンドルー・グローヴが1970年代に導入した。元インテル社員のジョン・ドーアがOKRに関する本"Measure What Matters: How Google, Bono, and the Gates Foundation Rock the World with OKRs"(何が重要かを測定せよ: Google、ボノ、ゲイツ財団はいかにしてOKRで世界を動かすか)を2017年に発刊している[1]。
概要[編集]
OKRは、1つのobjectiveと3-5個のkey resultsで構成される。objectiveは具体的で明確に定義された「目標」であり、key resultsはその目標の達成度を測るための定量的で測定可能な「指標」である[2][注釈 1]。
objectiveは、具体的で明確に定義されているというだけでなく、その目標を実現する個人・チーム・組織にとって「達成したい」と思わせるような刺激的なものでなければならない[3]。objectiveは、key resultsを前進させ、objectiveを達成するための計画や活動であるinitiativeによって推進される[4]。key resultsは、objectiveの達成度を計画立案者や意思決定者が判断するために使用可能な、0-100%のスケールや何らかの数値(金額や割合)で数値的に測定可能なものでなければならない。key resultsの定義において、グレーゾーンがあってはならない[3]。
歴史[編集]
アンドルー・グローヴは、インテル在職中にOKRを導入し、1983年の著書"High Output Management"の中でそれを文書化した[5]。1975年、当時インテルの営業マンだったジョン・ドーアは、インテル社内でグローヴが講師を務める講座に参加し、当時"iMBOs"(Intel Management by Objectives)と呼ばれていたOKRの理論を学んだ[6]。
その後、インテルを退社してベンチャーキャピタル会社のクライナー・パーキンスに勤めていたドーアは、1999年にGoogleに対してOKRの手法を紹介した[7]。OKRはGoogleに定着し、「組織全体で同じ重要な課題に注力するための経営手法」として、すぐにGoogleの文化の中心となった[6]。
ドーアは2017年にOKRフレームワークに関する著書"Measure What Matters"を発刊した。ドーアはグローヴによるOKRのコンセプトを次のように説明している[6]。
key resultsは測定可能でなければなりません。最終的にあなたは、何の議論もなくそれを見ることができます。「私はそれをやったのか? イエスかノーか」。単純です。何も判断することはありません。
Google共同創業者のラリー・ペイジは、ドーアの本に寄稿した序文において、OKRを次のように評価している[6]。
OKRは、我々を10倍以上の成長に導くのを手助けしました。OKRは、「世界の情報を整理する」という我々の熱狂的で大胆なミッションを、達成可能なものにするのを手助けしました。OKRは、私や他の社員が時間を守れるようにし、最も重要なときに軌道に乗せてくれたのです。
GoogleでOKRが一般的になって以降、この手法は、Twitter[8]、Uber[9]、マイクロソフト[10]、GitLab[11]、メルカリ[12]などの他の大規模企業にも導入されていった[13]。
ベストプラクティス[編集]
ドーアは、組織のkey resultsの目標成功率を70%にすることを推奨している。成功率を70%に設定することにより、低リスクで労働者の能力を引き出すような競争的なobjectiveを設定することを推奨している。常に100%の成功率が達成されている場合は、key resultsを見直す必要がある[6]。
OKRは、その定義から、それ自体が行動指向的でインスピレーションを与えるものではないため、平常通りの業務(BAU)をobjectiveにしないように、組織はその作成に注意する必要がある[14]。また、"help"(支援)や"consult"(相談)のような言葉も、抽象的な活動を表す傾向があり、測定可能ではないため、避けるべきである[15]。
key resultsには、遅行指標よりも先行指標が推奨される。先行指標は、何かが正しく実行されていないときに早期に警告を出すため、組織が軌道修正をすることができる。遅行指標は、特定の変化に起因するものではないため、組織が時間内に軌道修正することが困難になる[16]。
批判[編集]
OKRは一般的に、組織、チーム、個人の各レベルで設定されるが、これはウォーターフォール・モデルになってしまうという批判がある[17]。
類似のフレームワーク[編集]
OKRは、方針管理における「Xマトリックス」やOGSM(Objectives, goals, strategies and measures)のような、他の戦略計画のフレームワークと一部重なっている。ただし、OGSMには「戦略」(strategy)が構成要素の1つとして明確に含まれている。
加えて、OKRは他のパフォーマンス管理のフレームワークとも重なっており、KPIとバランスト・スコアカードの中間に位置する[18]。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ OKRに関する用語の日本語の定訳はないため、本項目では英語の単語のまま記している。objectiveは「目標」「達成目標」、key resultsは「主な結果」「主要な成果」「評価指標」「成果指標」などと訳される。
出典[編集]
- ^ “What is OKR? - Objectives and Key Results Guide in 2021” (英語). Corvisio OKR (2020年5月17日). 2021年10月15日閲覧。
- ^ Wodtke, Christina (2016). Introduction to OKRs. O’Reilly Media, Inc.. ISBN 9781491960271
- ^ a b “What is an OKR? Definition and examples” (英語). What Matters. 2021年8月24日閲覧。
- ^ Maasik, Alexander. Step by Step Guide to OKRs. Amazon Digital Services LLC
- ^ Grove, Andrew (1983). High Output Management. Random House. ISBN 0394532341
- ^ a b c d e Doerr, John (2018). Measure What Matters: How Google, Bono, and the Gates Foundation Rock the World with OKRs. Penguin Publishing Group. pp. 31. ISBN 9780525536239
- ^ Levy, Steven (2011). In The Plex: How Google Thinks, Works, and Shapes Our Lives. Simon & Schuster. pp. 162–3. ISBN 978-1-4165-9658-5
- ^ Wagner, Kurt (2015年7月27日). “Following Frat Party, Twitter's Jack Dorsey Vows to Make Diversity a Company Goal”. recode. Vox Media, Inc. 2021年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年11月3日閲覧。
- ^ Fowler, Susan. “Reflecting On One Very, Very Strange Year At Uber”. Susan Fowler Blog. Susan Fowler. 2018年4月19日閲覧。
- ^ Chadda, Sandeep. “6 things I learnt about OKRs @ Microsoft”. Medium. 2021年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月9日閲覧。
- ^ “GitLab: Objectives and Key Results (OKRs)”. GitLab. 2022年2月25日閲覧。
- ^ “Googleやメルカリも導入する目標管理手法、OKRの基礎知識”. 2022年6月3日閲覧。
- ^ “OKR Cycle”. Enterprise Gamification (2017年10月18日). 2021年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月14日閲覧。
- ^ “OKRs are not "BAU"” (英語). What Matters. 2021年8月24日閲覧。
- ^ “re:Work - Guide: Set goals with OKRs” (英語). rework.withgoogle.com. 2021年8月24日閲覧。
- ^ “Going from Good to Better Part 2” (英語). What Matters. 2021年8月24日閲覧。
- ^ Formgren, Johan (2018年10月15日). “Power of making a difference at work – Blog Article”. Its in the Node. 2021年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年10月15日閲覧。
- ^ Davies, Rob (2018年10月9日). “OKR vs Balanced Scorecard – Paul Niven Explains the Difference”. Perdoo GmbH. 2021年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月3日閲覧。
関連項目[編集]
- 目標による管理 (MBO: management by objectives)
- OGSM (objectives, goals, strategies and measures)
- 方針管理
- 重要業績評価指標(KPI: key performance indicator)
- バランスト・スコアカード
- SMART (マネジメント)
- GQM (Goal Question Metric)