アフターコロナの日常のマイナーアップデートと驚きの少なさ:『WIRED』日本版が振り返る2023年(ギア・ガジェット編)

ワイヤレスイヤフォンにフィットネストラッカーにスマートウォッチなどなどなど。今年も数多の新しいデジタルデバイスが登場し、WIRED.jpでもしばしばレビュー記事などに注目が集まった(もちろんロングリードもたくさんある)。そのなかでもよく読まれた記事をピックアップし、『WIRED』日本版が振り返る2023年(ギア・ガジェット編)としてご紹介する。
アフターコロナの日常のマイナーアップデートと驚きの少なさ:『WIRED』日本版が振り返る2023年(ギア・ガジェット編)
Photograph: songsak chalardpongpun/Getty Images

今年、最も話題をさらったデジタルデバイスのひとつはApple Vision Proではないか。あるいはついにLightning ケーブルからUSB-CへとスイッチしたiPhone 15。いずれにしてもアップルはプラットフォーマーの影響力(アグレッシブなイノベイションと汎用化という点で)を、新たにリリースする製品を通して明確にしている。それらの動向に関しては、アップルに関する記事をまとめているので、そちらをぜひ。本稿では、それ以外のギアやガジェットについての記事を振り返ってみたい。

まず、例年にも増してよく読まれていたのが、ワイヤレスイヤフォンの製品レビューだ。SONYの「WF-1000XM5」やShokzの「OpenFit」、BOSEの「QuietComfort Earbuds II」などを徹底して解説(ちょっと辛口)が上位にランクインしている。本稿のランキングには入らないが、当然、新型Air Pods Proの記事も注目されたし、このほかにもBEATS「Studio Pro」やUltimate Earの「PREMIRE」、「Nothing Ear (Stick)」など注目のイヤフォンにまつわる記事は多数あった。

2010年代中頃に登場したケーブルのないイヤフォンのユーザーは、パンデミックによるリモートワークを経て飛躍的に増えたわけだが、あれから2〜3年が経つ。ワイヤレスイヤフォンとの新しい生活が一巡し、よりよい製品への興味や欲求が増しているのかもしれない。

つまり、それだけ日常に根付いたプロダクトになり、機能や性能だけでなく、差異や個性を反映すべき対象となったともいえる。例えばメガネや靴下みたいに。個人的な見解を述べさせていただくなら、心配するな、耳は多くても2つしかなく、靴下は定期的に入れ替えたほうがいい(窓拭きや床掃除に使おう)ということだろうか。

そのほかに現れた傾向としては、ヘルストラッキングにまつわるプロダクトへの注目も挙げられる。例えばUltrahumanの「Ring AIR」や「Fitbit Charge 6」、Garminの「Forerunner 965」(こちらはよりアスリート志向)などのレビュー記事がそれだ。

身体の状態をテクノロジーによって可視化するというライフスタイルもまた、パンデミックによって拡大したが、終息後の今年も変わらず続いていることを示している。前者の2つのモデルは“血中酸素”のレベルを高い精度で測定可能。このような機能があると安心した気持ちになるのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がいかにわたしたちの身体や健康に対する意識の解像度を高めたかを物語る。

というわけで、どうやらわたしたちはアフターコロナのライフスタイルを少しずつリフォームしているようだ。未曾有の厄災を切り抜けながら学んだ教訓や新しい価値を生活のなかに根付かせ、目の前の日々をより快適かつ豊かにしている。きわめてまっとうなことだと思うが、実際のところ少し寂しさもある。ランクインしたのはいずれもテクノロジーの成熟を示す優れた製品の記事ではあるが、それらはあくまで既存の利便性や快適さのアップデート。つまり驚きが少なく、真新しい可能性を問うようなプロダクトではなかったともいえるのではないか。

一方でそのようなガジェットの記事がなかったかといえば、そうではなかったことも振り返るとわかる。例えば鳥の餌箱「Bird Buddy」。決してよく読まれた記事とは言えないが、『WIRED』US版が2022年の「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」での最優秀製品のひとつとしてピックアップし、今年は丁寧なレビュー記事がポストされた。シンプルだがデザインが行き届いたハードウェアにAIが実装されており、食事に訪れた鳥の種類を特定して知らせてくれるという機能をもつ。

確かにソーラーパネルの屋根付きで$299というのはなかなか高価だし、野鳥観察に興味をもてなければ、鳥がやって来るたびにスマートフォンに通知される機能すらわずらわしく感じるかもしれない。しかし、付属のアプリで認識した鳥の詳しい解説(生態の特徴や食べ物など)を読めば、自宅の周辺にどのような生態系が営まれているかを知ることができるし、何より生活に新しい価値と視点(まさにバードアイ)をもたらしてくれる。あるいはスマートフォンの画面から青い鳥が消えた今年、鳥と再び親しむためのまったく新しい方法であったことも付け加えておきたい。

では、ここからは、23年に最も読まれたギアやガジェット関連の記事をランキング形式で紹介する。


01 ソニー「WF-1000XM5」レビュー:ついに“最強”の座を譲ったかもしれない

ソニーのワイヤレスイヤフォンの新モデル「WF-1000XM5」が発表された。小型化された本体には前モデルと比べて大きなドライバーと豊富な機能が搭載されたが、臨場感に欠ける音質や平凡なノイズキャンセリング機能のせいで、ナンバーワンとは言えなくなってきているかもしれない。>>記事全文を読む


02 Ultrahuman「Ring AIR」レビュー:“終身サブスクリプション”込みで着け心地のいいスマートリング

Ultrahumanからスマートリングの「Ring AIR」が登場した。着用しているだけで睡眠や運動量を計測し、アプリでデータを確認できる。運動時の心拍数の計測結果が不正確であるなど荒削りな部分は見られるが、ユーザーの日々のデータをもとに提案されるアドバイスは、健康的な習慣づくりに有用だ。>>記事全文を読む


03 スマートフォンのバッテリーにまつわる11の「嘘と真実」

バッテリーは使い切ってから充電したほうがいい、使うときは温かい状態がいい、純正品ではない充電器は悪影響を及ぼす──。スマートフォンのバッテリーをめぐる「神話」はそこら中に転がっているが、どれが本当でどれが嘘なのだろうか? 11の「嘘と真実」を明らかにした。>>記事全文を読む


04 Shokzのオープンイヤー型イヤフォン「OpenFit」は音質も値段も悪くはないが、ぴったりの用途が見つからない:製品レビュー

Shokzからオープンイヤー型のイヤフォン「OpenFit」が登場した。音質は決して悪いわけではなく、高価すぎることもないが、運動の際に使うなら「OpenRun Pro」に手を伸ばしてしまうだろう。>>記事全文を読む


05 「Fitbit Charge 6」は、“グーグル化”しながらも大きく進化した

フィットビットの最新モデル「Fitbit Charge 6」が発表された。Google マップによるルートのトラッキングやGoogle ウォレットによる支払いなど、グーグルのサービスとの連携が強化されている。>>記事全文を読む


06 富士フイルム「X-T5」は、静止画を撮る人が選ぶべき最高のカメラのひとつ:製品レビュー

富士フイルムのミラーレス一眼カメラ「X-T5」は、静止画を中心に撮るなら、いま最も買うべきカメラのひとつだと言っていい。レトロなルックスとフィルムカメラのような操作性で、同社らしい色彩表現を存分に楽しめる。>>記事全文を読む


07 ボーズの「QuietComfort Earbuds II」は、圧倒的なノイズキャンセリング性能で他を凌駕する:製品レビュー

ボーズから新型ワイヤレスイヤフォン「Bose QuietComfort Earbuds II」が発売された。前モデルから小型軽量化され、欠点だった大きさの問題を解消している。最大の特徴であるノイズキャンセリング機能は他を圧倒する性能だ。>>記事全文を読む


08 Garminの最新モデル「Forerunner 965」はランニングウォッチとスマートウォッチの機能を両方享受できる「提案する」フラッグシップだ:製品レビュー

ランナーにとってランニング用GPSウォッチは紛れもなく必需品だ。このジャンルを牽引するGarmin(ガーミン)の最新モデルをいち早く体験したトレイルランニング・ランニング専門店Run boys! Run girls!の桑原慶が、その多彩な「提案力」をレビューする。>>記事全文を読む


09 XRスマートグラス「Viture One」はモバイルゲームに最適だが、装着感にはまだ改善の余地がある :製品レビュー

XRスマートグラス「Viture One」はスマートフォンや各種ゲーム機と接続し、“仮想の大画面”でゲームをプレイしたり、映画を視聴したりできる製品だ。進化を続けるこの分野の製品としては、現時点ではゲーマーにとっての最良の選択肢である。>>記事全文を読む


10 わたしたちはAR/VRヘッドセットを普段使いする生活をしたいのだろうか?

2023年6月、メタ・プラットフォームズとレノボが新たなVRヘッドセットを発表し、アップルもMRヘッドセット「Apple Vision Pro」を発表した。でもいまのところ、顔を覆うスキーゴーグルのようなデバイスを装着したまま歩き回る生活は現実的な感じがしない。>>記事全文を読む


EXTRA:庭にやってきた野鳥の種類を教えてくれる「Bird Buddy」があれば、観察と餌やりを存分に楽しめる:製品レビュー

カラフルで可愛らしい給餌器「Bird Buddy」は、庭にやってきた鳥の写真を撮影し、AIを利用して種類を特定してくれる。朝8時に野鳥観察に出かけられなくても、自分の好きな生物について知りたい人には素晴らしい情報源になるだろう。>>記事全文を読む


『WIRED』日本版が振り返る2023年の記事はこちら

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