こんにちは。linoticeの中のヒトです。さて、みなさんは「黒帯制度」についてどれくらい知っていますか?
先日「たった1%の狭き門。黒帯制度とは?」という記事で、黒帯制度がどういうものか紹介しました。
今回はもう一歩踏み込んで、「黒帯の人たちは普段何をしているのか?」を聞いていこうと思います。そこで話を聞いたのは倉林 雅(認証技術〈ID連携〉黒帯)、清水 淳子(グラフィックレコーディング黒帯)、里山 南人(Androidアプリ黒帯)の3名。
それでは早速インタビューに移りましょう。
「専門技術のプロフェッショナル」としての黒帯制度
左から、里山 南人(Androidアプリ黒帯)、清水 淳子(グラフィックレコーディング黒帯)、倉林 雅(認証技術〈ID連携〉黒帯)
――まずは「黒帯」として行っている活動を教えてください。
倉林:IDサービス統括本部でYahoo! JAPAN IDの管理・運用を担当している部署に所属しています。僕はそのなかでもID連携分野の業務を行っていて、黒帯としても「認証技術(ID連携)」の担当です。
IDを発行、管理しているウェブサービス、SNSなどが他社のサービスに対して認証や連携を提供しているのですが、同様にYahoo! JAPAN IDもいろいろなサービスへ連携機能を提供しています。そのなかで僕はID連携のシステム設計や開発、連携にともなう技術的な仕様について、コンサル中心の業務を行っています。
黒帯としても認証技術に関連する領域を担当しているので、ヤフーがどんな認証技術、ID連携技術を取り入れていて、どのようにパートナーのサービスと連携しているのかを発信、宣伝しています。普段の業務の延長で、サービスの宣伝やYahoo! JAPAN IDで活用している最新技術の発信を行っているという感じですね。
清水:私の所属部署はデータ&サイエンスソリューション統括本部です。業務としては、ヤフーが大量に保持しているデータを用いて、どんなUXが生み出せるかをデータサイエンティストとプランニングすることです。
データサイエンスという領域では、技術的な連携は比較的スムーズに行われる一方で、サービス側との連携は難しいことがあります。そこで私が間に入り、データサイエンスの人とサービスの人がやりたいことをつなぐため、話し合いの場を作ることがあります。その際に相互の誤解がなく、うまくプロジェクトが進むように議論を可視化する「グラフィックレコーディング」を活用しています。
黒帯としては、業務の中でどのようにグラフィックレコーディングを生かしたか、その事例をまとめて研究論文にして、デザイン学会で発表しています。アカデミックな領域から発見を得つつ、ビジネスの最前線で生かすことにチャレンジしてます。ビジュアライゼーションの重要性を発信して、より多くの人が可視化の技術を使えるようになることを目指しています。
グラフィックレコーディングについてまとめた清水の書籍
「Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書 清水 淳子」
里山:自分はもともとマネージャー思考で、組織編成上はプロジェクトマネージャーという立場です。アプリで目標の数値をどう達成するかという観点で業務を行っています。
黒帯としても、本業と同様にAndroidアプリの担当です。2011年くらいから日本Androidの会や、shibuya.apkという開発者コミュニティーを運営していて、それを黒帯との活動とひもづけています。
あとは、社内外問わずイベントに登壇することは増えました。Yahoo! JAPAN MeetUpでも登壇してます。
――「ID連携」「グラフィックレコーディング」「Androidアプリ」の黒帯なんですね。みなさんは黒帯になって何か変化はありましたか?
倉林:「黒帯」という肩書をもらったことで、その領域のプロフェッショナルとして、社内外で技術に関する情報発信がしやすくなりました。
黒帯の事務局をはじめ、多くの媒体で黒帯についての発信を行っていますが、認知が広がると「ヤフーには黒帯がいて、その人たちが発信する技術、仕組みはこれからの業界を支えていくものだ」っていう認識をされやすくなる。
今でも、ID連携というある種裏方に近い部分の技術を黒帯という肩書をつかって発信しやすくなっていると実感しています。
清水:ヤフーっていろいろな会社が集合したような会社で、私はその隙間を埋める仕事をしているんですが、今までは社内のミーティングでも「なんでデータ&サイエンスの人が来てるの?」という風に見られることが多かったんです。
でも「黒帯」という肩書がつくと「ああ、全社のために動いている人だから来ているのか」という風に、納得してもらいやすくなりました。全社を横断するような活動がしやすくなったなと感じます。
――なるほど。認知されることで本業の部分でも動きやすくなっているんですね。
里山:変化、という点でいうと黒帯任命式が大きかったなと思います。私は2014年の中途入社なので、任命式で社長の宮坂、CMOの村上、CTOの藤門などの役員陣に、Androidアプリの黒帯ですよということを認識してもらえたことは大きかったです。
それも含めて、社内だけでなく大勢の目の触れる場でも積極的に発言できるようになった気がします。
――ふむふむ。黒帯として社内に認知されることで動きやすくなったという点は3人の共通認識ですね。6000人のうち1人しか選ばれない専門領域ですし、これからいよいよ頼られることも多くなる予感がしますね。
黒帯活動支援金100万円の使い道
――ぶっちゃけ黒帯になってから条件や役職などのメリットはありましたか?
清水:正式に黒帯になると社内の人に「年収1億円なんでしょ?」とか冗談めかして言われることがあるのですが、そういうことはないです(笑)
ただ、黒帯活動支援金っていうのが100万円支給されます。これは黒帯としての目的を果たすための活動予算として割り振られるものなんです。その活動予算で、情報を持つ人と会ったり、資料や参考文献を集めたりしやすくなりました。
私の場合はいろいろな立場や分野の人に会い、意見交換することで、想像力が豊かになって、社内では思いつかない研究方法や解決方法を発見できるということがあります。なので、なるべく社外の人にお会いして書籍化されていない新しい情報を集めたいと思っています。黒帯になる前は休日に自費で情報収集していたのが、黒帯活動として、平日の方が会いやすい人には平日に会いに行くことができるようになりました。
倉林:100万円使い切るのはなかなか大変ではありますが、サービスの予算では下りにくい予算が使えるようになるというのはメリットだと思っています。例えば、自分が行きたいカンファレンスがあったとして、そのカンファレンスに参加するとどういうメリットがあるのか、サービスに還元できるのかというのは直接的にはわかりにくい。新しい技術を学べるものの、それを領域が近いサービスの成果にすぐつなげられるかというと、そうでもない。
なので、そういうセミナーやカンファレンスの出張は100万円の予算でわりと行きやすくなったと思います。少しでも参加メリットがあると感じたイベントに、黒帯の裁量で参加できるようになったのはうれしいですね。昨年も国内のカンファレンスに行く際の予算として使いましたよ。
里山:自分の場合、それが黒帯になろうと思ったきっかけのひとつでもあるんですが…shibuya.apkは各社持ち回りで開催していくイベントなんです。そのときに毎回飲食物を各会社さんが出してくれるんですが、そういうときに社内の申請を行って、予算を出すのは大変なんですよね。
そこで自由に使える予算があるのは便利だなと思っていました。その方が小回りも利くし、イベントの開催頻度を上げたり、発信の機会を増やしたりしやすいので。そういう意味で予算がつくのはありがたいなと思います。
――正直なところ、100万円って多いと思いますか?
里山:個人で使用する分には少なくはないと思います。半分くらいはセミナーの開催費用で使って、あとはタイミングが合えば海外のカンファレンスに行きたいなと考えています。そういう予算をサービスや事業部でつけるのは難しいですが、実際に行ってみると収穫もあるので。
倉林:たしかにサービス予算で行くのは大変ですよね。海外の出張となると、かなり費用はかさみますからね。
清水:私的には、個人で使用する分には十分、一方で世界最先端の研究を本格的にやろうと思うとかなり少ないかなとも思います。もし社内ではなく、世界を舞台にしても通用する研究をしようとしたら、もっと大規模にチームで動いて、プロジェクト運営することが必要になります。 また、今までにない事実を検証するための実験を行うとしたら、かなりの予算が必要になってしまいます。
なので、世界にフィールドを広げて戦うと考えると多くはないかなと。個人の研究支援ではなく、業界全体の分野としての発展を目指す方向も視野に入れるとしたら、もっと大胆にワイルドな予算展開ができるといいと思いますね。
――黒帯としての発信や、通常業務への還元ができる用途を考えているんですね。あと、役職が変わったり、評価のされ方が変わったりとかはありますか?
(黒帯になると、特製名刺が配られる)
清水:「黒帯」というのは厳密に言うと役職ではなくラベルのようなものなので、役職に変化はありません。ですが、社員の名簿には「部長」や「リーダー」などが書かれていて、黒帯になるとその名簿に黒いラベルで「黒帯」って書かれるんです(笑)
それが何かっていうわけではないんですが、社内で新しいプロジェクトをやるときや人を探すときに役に立つみたいなので、声はかけられやすくなりますね。
――なるほど。役職ではないけど、やはり認知はされるものなんですね。
黒帯は個人の技術力を、会社全体に還元することを強く考えている人たち
――では、黒帯に向いている人はどういう人だと思いますか?
倉林:黒帯になってみると、思ったよりも本業との兼ね合いが忙しいんです。でもヤフーが好きで、ヤフーの技術が好きで、それを表舞台に出せるように技術やサービスを発信する黒帯の業務も好きなので、なんとか時間を捻出してやりたいなって考えているので、同じように発信に前向きな人の方がいいのかなと思っています。
清水:私も黒帯の役割って「会社のサービスをよくするために、いかに自分の黒帯の力を使うか」という感じだと思っています。だから黒帯予算が支給されて、機会も提供してもらいやすくなるなと。
「会社のミッションを達成するために、技術や専門分野をより追い求める時間をつくる」っていう順番だと思うので、そういう順番だよって認識したうえで就任できるといいのかなと思います。
里山:ヤフーには若いAndroidエンジニアたちがいっぱいいて、勉強会もよく開催しているんですが、黒帯には「会社を担う」という側面もあるので、技術が好きというだけではなく業界をどうするか、会社を技術面でどういう方向にリードするかを考えられるといいのかなと思いますね。
(Developers Summit 2017に登壇する里山)
――では、黒帯になってよかった!というエピソードはありますか?
清水:黒帯になって「グラフィックレコーディング」というものを一個人の得意技ではなく、ヤフーが公式に重要だと考えてる技術として認知していただけるようになりました。
知る人ぞ知る技術だったのが、黒帯というラベルでより多くの人が知る機会を作れる。そうすることで、自分一人の技術としてではなく、その分野に関わるみんなが世の中から注目を集めて活動しやすくなる。その流れに少しでも貢献できたと思います。
倉林:最初から一貫して感じている魅力ですが、黒帯になるといろいろなインタビューに声をかけてもらえることが多くなったので、サービスのブランディングがすごくやりやすくなりました。
やっぱりID連携は裏方なんですよね。発信したいと思うのですが、自分の力だけでは発信する機会が増えにくい。でも黒帯になって発信する機会がすごく増えたので、サービスのブランディングという面でよかったなと思います。
里山:Androidの領域ってすごく難しいんですよ。というのも他社と比べると、ヤフーがアプリをやっている印象はまだ弱い。それが、黒帯になると押し出しやすくなる。そこがすごくいいなと思います。ただ私としてはまだ道半ばだと思うので、今後の頑張り次第だと考えています。
あとは書籍の話とかはけっこう来るようになりました。これはうれしいですね。昨年一冊本を書いたのですが、本を書きはじめると1年間ずっと書くようになってしまって、楽しいけど大変なのでドキドキしちゃいますね(笑)
倉林:僕も黒帯になって書籍の連絡は来るようになりました。そんなに大変なんですね(笑)
――黒帯というのは自分も含め、所属しているチームやヤフーの中身を伝えるときにも役にたつんですね!
それぞれが持つ、黒帯としての目標
――最後に、黒帯としての目標を聞きたいです。
里山:黒帯になった目的は、自分がもともとマネジメントをしていて感じた、ヤフーでアプリエンジニアが少ないなという課題を解決するためでもあります。データサイエンス、ビッグデータ系の学生の数は多い。だけど、アプリ部門をもっと強化する必要があると思っていました。
なのでアプリの技術発信や認知を広げて、ヤフーの門をたたいてくれる人が増えるといいなと思っています。現状の動きは継続しつつ、黒帯を見て面白いと魅力を感じてくれるような動き、アピールをやっていこうと思っています。
倉林:僕も里山さんの言う部分と近いかなと思います。IDの領域ってやっぱりニッチなんです。ヤフーではIDで専門の部署があって、エンジニアが20人から30人、企画も含めると40人規模になります。国内ではID専門の部署っていうのは珍しいんです。
ニッチな領域でも整った環境がある。そのおかげで新しい技術にもキャッチアップしやすい会社だと思っています。IDの技術は楽しいということを発信していきたいし、ヤフーにはその部署があることを知ってもらい、入ってもらいたい。
より多くの人に興味を持ってもらい、ID領域で活躍するエンジニアが1人でも増えたらいいなと思います。
清水:今後の動きでは、自分の行動がどれだけ人を巻き込めるのかが重要だと考えています。なので、研修やセミナーをオープンな場で実行して、広くグラフィックレコーディングに接する人を増やす。その上で、ヤフーでも技術の活用がスムーズに行えるようにしたいと思っています。
黒帯は、個人の能力をさらに高めてヤフーに還元する人たち
今回、こうして黒帯の皆さんにじっくりと話を聞いてみて、黒帯というのは「個人の研究を追求する」だけではなく「個人の研究、専門分野を追求して、ヤフーの目的を達成する」という明確な役割があるということがわかりました。
最新の技術にキャッチアップし、社内外に発信をしていく。ヤフーの黒帯は全社の看板という責任を持ちつつ、個人の能力を昇華させる仕組みになっています。
今後もlinoticeでは黒帯関連の情報を発信予定。ぜひチェックしてくださいね。
それでは!
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※本記事は2017年4月に取材したものです。