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フランク・ロイド・ライトの「ユーソニアン住宅」の傑作《ローゼンバウム邸》
巨匠建築家ライトは生涯にわたり小規模な住宅も手がけ続け、優れた作品を生み出した。今回は、中流階級のために考案したユーソニアン住宅の傑作をご紹介します。
Bud Dietrich, AIA
2017年6月27日
フランク・ロイド・ライトは、そのキャリア全体を通じて小規模な住宅の設計に情熱を注いでいた。1900年代初期のプレーリーハウスから、1930年代に始まる平屋のユーソニアン住宅まで、一般的なアメリカの中流家庭向けに小さめの住宅をいくつか設計している。興味深いのは、1930年代の大恐慌時代まっただなかにも、こういった住宅のいくつかを完成させていることである。ライトが「ユーソニアン」と名付けたスタイルの住宅だ。
最初のユーソニアン住宅は、1936年に完成したウィスコンシン州マディソンのジェイコブス邸だった。その後、ライトは1939年にユーソニアン住宅を4件設計している。アラバマ州フローレンスのローゼンバウム邸もそのひとつだ。
ローゼンバウム邸は、スタンリー&ミルドレッド・ローゼンバウム夫妻への結婚祝いとして1940年に建てられた。当初は寝室3つ、バスルーム2つを備えた140平方メートルほどの住宅だったが、家族が増えたためローゼンバウム夫妻はライトに増築を依頼し、1948年に拡張されている。
当初のオーナー家族のうち、ミルドレッド・ローゼンバウムは60年にわたりこの家で暮らしていた。1999年、ひとりで暮らすことが難しくなってきたためフローレンス市に住宅を譲渡する。取り壊すべきという意見もあったが、フローレンス市長のエディー・フロスト氏の計らいで、住宅は修復され、フローレンス市の生きた文化のひとつとして残されることになった。修復は重要プロジェクトとして位置づけられ、修復の完成前にフロスト市長が急死してしまったあとも、臨時市長代理のディック・ジョーダン氏がプロジェクトを続行させた。修復費用は消費税に1%上乗せすることで賄われ、2000年、ローゼンバウム邸は一般公開に至った。
見学ツアー情報(英語):Rosenbaum House
最初のユーソニアン住宅は、1936年に完成したウィスコンシン州マディソンのジェイコブス邸だった。その後、ライトは1939年にユーソニアン住宅を4件設計している。アラバマ州フローレンスのローゼンバウム邸もそのひとつだ。
ローゼンバウム邸は、スタンリー&ミルドレッド・ローゼンバウム夫妻への結婚祝いとして1940年に建てられた。当初は寝室3つ、バスルーム2つを備えた140平方メートルほどの住宅だったが、家族が増えたためローゼンバウム夫妻はライトに増築を依頼し、1948年に拡張されている。
当初のオーナー家族のうち、ミルドレッド・ローゼンバウムは60年にわたりこの家で暮らしていた。1999年、ひとりで暮らすことが難しくなってきたためフローレンス市に住宅を譲渡する。取り壊すべきという意見もあったが、フローレンス市長のエディー・フロスト氏の計らいで、住宅は修復され、フローレンス市の生きた文化のひとつとして残されることになった。修復は重要プロジェクトとして位置づけられ、修復の完成前にフロスト市長が急死してしまったあとも、臨時市長代理のディック・ジョーダン氏がプロジェクトを続行させた。修復費用は消費税に1%上乗せすることで賄われ、2000年、ローゼンバウム邸は一般公開に至った。
見学ツアー情報(英語):Rosenbaum House
家の裏側は南西に面しており、ガラスがふんだんに使われている。アラバマの夏の強い日射しを防ぐため、屋根が大きく張り出している。L字型に配置した2つのウィングに囲まれて、一家が屋外のひとときを楽しんだであろうパティオがある。
写真左側のガラス扉が並ぶ部分がおもな生活空間で、右側が寝室になっている。右側の地面から浮いている部分は、主寝室とつながる「フローティング・バルコニー」だ。
この視点から見ると、なだらかな斜面を抱くように家屋が広がっていることがわかる。
写真左側のガラス扉が並ぶ部分がおもな生活空間で、右側が寝室になっている。右側の地面から浮いている部分は、主寝室とつながる「フローティング・バルコニー」だ。
この視点から見ると、なだらかな斜面を抱くように家屋が広がっていることがわかる。
ライトが設計した住宅の多くと同様に、道路に面した側は閉じられており、エントランスは目立たない。唯一、エントランスを示す要素といえば、玄関ドアの上にカンティレバーで大きく突き出た屋根だろう。
近隣の伝統的な家族向け住宅とは異なるため、ローゼンバウム邸の登場は大きな物議をかもしたに違いない。建設中には、1日に数百人もの野次馬が見物にやってきたそうだ。
近隣の伝統的な家族向け住宅とは異なるため、ローゼンバウム邸の登場は大きな物議をかもしたに違いない。建設中には、1日に数百人もの野次馬が見物にやってきたそうだ。
玄関のカンティレバー屋根のスケール感が、こちらの写真でお分かりいただけるだろう。もとはカーポートだったのだが、この天井の低さでは、キャデラック・エスカレードはまず収容できない。
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基本的には、部屋が直線状に並ぶ配置になっており、北西から見ると家の幅の薄さがよくわかる。左側にエントランスのカンティレバー屋根が見え、右側に家の裏手のパティオが見えている。
外壁は水平方向に並べたサイプレス材で仕上げている。サイプレスはライトがとくに好んだ素材のひとつで、害虫に強く耐久性が高い。
外壁は水平方向に並べたサイプレス材で仕上げている。サイプレスはライトがとくに好んだ素材のひとつで、害虫に強く耐久性が高い。
玄関を入り、北の壁沿いにスタンリー・ローゼンバウムの書斎のほうを眺めたところ。木の壁や天井、ステイン塗装をしたコンクリートの床で、外装に用いられた素材を室内にも取り込んでいる。埋め込み式シーリングライトのラインと、コンクリート床のラインがぴったり合っている。
レンガ壁がリビングスペースに安定感を与える。南西方向にはガラス扉が並び、ここから中庭に出られる。壁一面を構成するガラス扉は、1940年にはかなり珍しいものだったに違いない。当時の住宅では、裏庭につながるドアが1つあるだけ、というのが一般的だったのだ。多くの点で、ライトのユーソニアン住宅は、現代の私たちが好むような、裸足で過ごせる気楽なライフスタイルの先駆けとなっている。
庭に面したガラス扉の反対側は、サイプレス材のソリッドな板壁と造り付けの本棚になっている。本棚の上には、クリアストーリー窓が天井ぎりぎりに並ぶ。この窓は通風をよくするほか、天井面が部屋に浮かんでいるような印象をつくる効果もある。
この部屋は端から端まで、天井の中央が一段高く持ち上がっている。持ち上がった部分の側面は、片方はクリアストーリー窓になっていてさらに自然光を取り込み、もう片方には照明器具が隠されている。ライトは建築家としてスタートしたころから、自然光と人工の照明を組み合わせて、建築を引き立たせアクセントをつける方法を探っていた。
現存するローゼンバウム邸には、オリジナルのまま残っているところも多い。こちらのリビングルームの椅子など、ライトがデザインした家具もそのままだ。
この部屋は端から端まで、天井の中央が一段高く持ち上がっている。持ち上がった部分の側面は、片方はクリアストーリー窓になっていてさらに自然光を取り込み、もう片方には照明器具が隠されている。ライトは建築家としてスタートしたころから、自然光と人工の照明を組み合わせて、建築を引き立たせアクセントをつける方法を探っていた。
現存するローゼンバウム邸には、オリジナルのまま残っているところも多い。こちらのリビングルームの椅子など、ライトがデザインした家具もそのままだ。
L字型プランの2つの翼が交わる部分にキッチンがあり、そのすぐ向かいにダイニングエリアがある。
ダイニングエリアは、キッチンわきのコーナーに収まっていながら、同時に大きなリビングスペースに向かって開かれ、リビングの一部となっている。内と外をつなぐガラス扉が、ここでもダイニングとパティオをつないでいる。
スタンリー・ローゼンバウムの書斎も、ガラス扉で裏庭のパティオとつながっている。この部屋には、造り付けのデスクと、リビングとよく似た本棚がある。1948年の増築時には蔵書がかなり増えていたため、ローゼンバウム氏が本棚の追加を注文していた。
角部分では、壁のサイプレス材を留め継ぎにしているほか、ガラスのコーナー窓も数か所見られる。1930年代の素材技術を考えると、角にフレームのないコーナーガラス窓を使っていることには驚かされる。ライトのデザインに素材技術が追いついてきたのは、わずかこの10年ほどのことなのだ。
主寝室への廊下は幅が広く余裕があり、収納が造り付けられている。部屋で見られた埋め込み式シーリングライトが、廊下にも引き続き使われている。最初に建てられたときには、この廊下の左側は外に面した壁で、クリアストーリー窓がつくられていたため、廊下は今よりも明るかったのではないかと思われる。
ライトの設計した寝室の多くがそうであるように、こちらの主寝室もかなり小ぶりだ。造り付けの鏡台には、すぐ横のガラス扉から明るい光が入る。寝室まで、壁と天井はサイプレスの板張りだ。数年に一度壁のペンキを塗り替える、というような手間は、この家には無用なのだ。
1948年の増築で4人の息子たちのためにつくられた、2段ベッドのある部屋。かなり広く、寝室だけでなくプレイルームなども兼ねた子ども部屋だ。
こちらは、1939年の最初の平面の計画。片翼に家族やゲストが集まる部屋があり、もう1つの翼には寝室などプライベートな空間がある。バスルーム、キッチン、ユーティリティは、両翼が交わる部分に集められている。ガラス扉をふんだんに用いて、寝室や書斎を含む屋内空間と、屋外の中庭とをつなげているようすが見てとれる。
こちらは、オリジナルの建物に1948年の増築部分が加わった平面図。増築部分には、より大きなキッチンと朝食エリア、より大きなユーティリティルームとランドリールーム、4人の子どもたちの部屋、ゲスト用のスペースがある。
2000年8月、修復後の初公開時に「ウォーク・ライト・イン(どうぞお入りください)」と題して開かれた3日間のイベント期間中には、4千人もの人々がローゼンバウム邸を訪れた。フローレンス市の芸術・ミュージアム担当者、バーバラ・ブローチさんによると、夏の暑いなか、室内のようすをぜひ見たいという人たちの長い列ができたそうだ。
日本、ロシア、オーストラリア、イギリス、そして全米各地から、この家を目指して多くの人がフローレンスにやって来る。現在も世界中からの見学者のために公開されている。
まさに「ライト・サイズ」な素晴らしい住宅についてもっと知りたいという方には、この家の設計・建設・修復について詳しく記録した書籍『Frank Lloyd Wright’s Rosenbaum House: The Birth And Rebirth of an American Treasure(フランク・ロイド・ライトのローゼンバウム邸:アメリカの宝の誕生と再生)』をおすすめしたい。予算や技術的な問題から保全に至った過程まで、意識の高いクライアント、先見の明ある建築家、進歩的な市政の3者がつくり出すストーリーが描かれている。
教えてHouzz
ご感想をおきかせください。
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