瀉下薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

瀉下薬(しゃげやく、laxative)とは、いわゆる下剤便秘薬のことである。薬の副作用などによる便秘の不快な症状をとることを目的とする。ただし便秘の時は大腸癌などの腸閉塞性疾患を疑うことも重要である。

ビサコジルピコスルファートナトリウムセンナセンノシド炭酸マグネシウム等が主成分の便秘薬が市販されている。症状が軽い場合は、便のかさを増やしやわらかくして出やすくする目的で、プランタゴ・オバタ(オオバコ)種子等の食物繊維系の医薬部外品佐藤製薬のサトラックス・ライトなど)が用いられることがある。便秘薬は便秘を治療する薬ではなく、便秘症状である滞留便を薬剤の効果により一時的に排泄することで症状を改善する薬である。

ただ、生来身体に備わっている排便反射機能は、これら薬剤の連用により徐々に低下し、長期的には便秘がますます悪化する可能性もある。

便秘の分類[編集]

薬の使い分けに関して理解するために大雑把な分類を示す。便秘の病型はもっと細かいのだが、薬物療法に応用可能なものはそれほど多くない。大抵は便秘は慢性の機能性便秘であるので、その分類を示す。

弛緩性便秘
大腸の筋トーヌスが低下することで蠕動が障害され、糞便の腸内滞在時間が長くなり、水分の吸収が進み硬い便となる。高齢者、長期臥床、全身衰弱、糖尿病といった自律神経障害、薬剤の副作用で多い。長時間持続することが特徴的である。
痙縮性便秘
腸管の緊張が亢進しすぎて、逆に便の輸送が障害され便秘となるもの。過敏性腸症候群などがこれにあたる。兎糞状の便が特徴的である。
直腸性便秘
肛門反射の消失のため、便意を感じなくなる。直腸、肛門疾患や排便の習慣的抑制、脳脊髄疾患でおこる。

これらの分類を踏まえ、基本的には以下のように処方するのが原則である。

弛緩性便秘
膨張性下剤や刺激性下剤
痙縮性便秘
塩類下剤、膨満性下剤、浸潤性下剤
直腸性便秘
座薬や浣腸

また、炎症性疾患や痔疾患の場合は刺激性の下剤は避けるべきである。

下剤の分類[編集]

機械的下剤[編集]

基本的に便の水分を増加させて排便を容易にさせる薬である。

塩類下剤
腸管内に高浸透圧性の物質を入れることで、腸管内の水分量を保つ。大量の水分と併用すると効果的である。水酸化マグネシウム硫酸マグネシウムなどがある。
膨張性下剤
便を内部から膨張させることで腸管刺激を誘発し、排便を促す。バルコーゼなどである。
浸潤性下剤
界面活性剤であり、便の表面張力を低下させ便を軟化、膨満させる。バルコゾルなどである。
糖類下剤
便の浸透圧を上昇させる。モニラック(ラクツロース)などが有名である。造影剤による便秘にはD-ソルビトールが用いられる。

刺激性下剤[編集]

ヒマシ油などが小腸を刺激し下痢を起こすのは有名である(現在でも日本薬局方にヒマシ油の記載がある)。また現在は大腸に刺激を与えるものが多い。

アントラキノン系誘導体
アロエ、センナ、大黄など生薬類に含まれる配合体であり、小腸より吸収され血行性に大腸の粘膜を刺激する。アローゼン、プルゼニドなどが有名である。
ジフェノール誘導体
大腸検査の前処置として用いるラキソベロンがここに含まれる。
その他
ビサコジル(テレミンソフト)は大腸刺激性下剤に属し、大腸検査の前処置に頻用される。新レシカルボンは直腸内で徐々にCO2を発生し、腸運動を亢進させるため直腸性便秘に使用する。コーラックも大腸を刺激する。

自律神経作用薬[編集]

基本的に腸蠕動は副交感神経刺激で亢進し、交感神経刺激で減弱する。それを治療に応用する。

弛緩性便秘
副交感神経刺激薬としてパンテチンやネオスチグミンを用いる。
痙縮性便秘
副交感神経遮断薬としてメペンゾラートを用いる。

他にも消化管運動調整薬としてセレキノン(物質名:トリメブチン)が過敏性腸症でよく用いられる。

処方上の注意[編集]

使用禁忌[編集]

診断がつかない腹痛や腸閉塞時は使用しない。

適応[編集]

腹筋や会陰筋の低下した老人の便秘や抗コリン薬や麻薬を投与している場合の便秘、大腸検査の術前処置や痔核のある人の便秘に適応がある。

治療の原則[編集]

  • 下剤はあくまで対症療法であり、治療可能な原疾患を忘れないようにする。
  • 同じ下剤でも量を増やせばいくらでも強くなる。
  • 第一選択薬は酸化マグネシウムである。無効時は変更か併用。
  • 同一下剤の長期連用は効果の低下や習慣性の原因となる。回復したら徐々に減量、中止する。

瀉下薬の使い分け[編集]

以下に示すのはあくまで一例であり、病態によって処方は異なる。

便が横行結腸よりも上部にあるとき
症状が重い場合は刺激性下剤を用いる。例えば、ラキソベロン(2.5mg)2錠を就寝前に経口投与する。ただし、刺激性下剤は含まれる瀉下成分が強すぎると下痢をしてしまう。市販の便秘薬のなかでも生薬便秘薬(例えば、昔からある毒掃丸など)は、小さな粒を服用するタイプが多く、摂取する瀉下成分を症状にあわせて調節しやすい。
症状が軽度の場合は緩下薬を用いる。例えば、ミルマグ(350mg)を3T 3×で7日分投与する。
便が下行結腸よりも下にあるとき
グリセリン浣腸を60mlあるいは150mlを浣腸する。必要があれば摘便する。浣腸の場合は症状が改善するのか必ず確認する。改善しなければほかの疾患を考える。特に高齢者の場合は消化管穿孔することもあるので量を少量にするなど工夫が必要である。
疼痛コントロール
ガス痛の要因が強い場合はガスコン(40mg)経口、頓服とする。
消化管運動が亢進することによる痛みの場合はブスコパン(10mg)を経口、頓服とする。この処方は排便を阻害するとは考えられていない。

参考文献[編集]

関連項目[編集]