汚職
汚職(おしょく)とは、議員・公務員など公職にある者が、自らの地位や職権・裁量権を利用して横領や不作為、収賄や天下りをしたり、またその見返りに特定の事業者等に対し優遇措置をとることなどの不法行為をいう。国際連合腐敗防止条約を始め国際法では、汚職は『腐敗』の一部と認識されている。
他方、便宜供与や優遇措置を求める側のする活動は、ロビー活動やレント・シーキングという。
目次
汚職の類型[編集]
狭義には、刑法の賄賂罪であるが、その他、背任罪、偽計業務妨害罪などがある。
公務上の義務に反する行為は、贈収賄や便宜供与の他は、違法行為を黙認する不作為や、公務員職権濫用罪、虚偽公文書作成等罪などの作為を問われる。
法律用語では、刑法が定める公務員の公務員職権濫用罪や贈収賄罪といった汚職の罪のことを「瀆職罪」(とくしょくざい)ということがある[1]。また、政治にからむ大規模な贈収賄事件で、犯罪の事実が特定しにくい裁判事件のことを疑獄(ぎごく)、警察用語ではサンズイ(「汚」の部首)ともいう。
公務・公職にある者に関しては、証拠隠滅罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪、詐欺罪、財物侵奪罪、不動産侵奪罪、横領罪についても規定が設けられている。
汚職の主体[編集]
汚職に関わる可能性のある機関としては、公務執行機関(中央省庁や地方自治体の機関、司法機関)の他、独立行政法人や公益法人、また、教育機関、労働組合などの組合や職員団体、医療・法律などの職能団体、スポーツ・報道などの業界団体・利益団体、宗教団体などがある。
汚職の規模[編集]
汚職の規模は、主に個人が公務執行機関等に迅速な対応を求める目的などで行う小規模な汚職、事業者等が公務機関等に対し自らに有利な法制や規制の緩和、受注などを求めることに端を発する大規模汚職、情報公開が制限されていたり構成員の裁量権に対する歯止めが不足していることから発生する構造的な汚職など、様々である。
汚職取締りに関する法令[編集]
国内法[編集]
- 1907年(明治40年)- 刑法「汚職の罪」(第193条-198条)、秘密漏示罪(第134条)、他
- 1948年(昭和23年)- 政治資金規正法
- 1949年(昭和24年)- 弁護士法(第26条、第30条の19、第76条)
- 1950年(昭和25年)- 司法書士法
- 1950年(昭和25年)- 予算執行職員等の責任に関する法律
- 1974年(昭和49年)- 2006年(平成18年) 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(第28条、第29条の7。会社法へ移行)
- 1986年(昭和61年)- 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律
- 1993年(平成 5年)- 不正競争防止法
- 1999年(平成11年)- 国家公務員倫理法
- 2002年(平成14年)- 2008年(平成20年)中間法人法161条(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律へ移行)
- 2002年(平成14年)- 入札談合等関与行為防止法
- 2004年(平成16年)- 不正競争防止法改正(外国公務員贈賄罪)
- 2005年(平成17年)- 会社法、業務の適正を確保するための体制
- 2006年(平成18年)- 公益通報者保護法
- 2008年(平成20年)- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律337条
- 2013年(平成25年)- 特定秘密の保護に関する法律
国際条約[編集]
- 1981年(昭和56年)- 条約法に関するウィーン条約
- 2003年(平成15年)- 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(未批准)
- 2003年(平成15年)- 国際連合腐敗防止条約署名(未批准)[2]
諸外国の法制[編集]
- 韓国:腐敗防止法
- ミャンマー:Anti-Corruption Commission
- タイ:腐敗防止法
- カンボジア:Anti-corruption legislation in Cambodia
- ベトナム:Anti-corruption law
- インド:Anti-corruption legislation in India
- バングラデシュ:Anti Corruption Commission in Bangladesh
- ロシア:Anti-corruption law in Russia
- トルコ:Anti-Corruption_Legislation in Turkey
- ルクセンブルグ:Anti-corruption laws in Luxembourg
- モーリシャス:Anti-corruption law in Mauritius
- ナミビア:Anti-corruption Commission of Namibia
- セルビア:Anti-corruption efforts in Serbia
- 米国:連邦海外腐敗行為防止法、RICO法
- カナダ:Federal Accountability Act、Corruption of Foreign Public Officials Act
外国公務員贈賄事件(日本)[編集]
- 2012年(平成24年)- 電線メーカー事件(インドネシア)[3]
- 2013年(平成25年)- 自動車関連メーカー事件(中国)[4]
- 2014年(平成26年)- 丸紅事件(インドネシア)[5]
- 2014年(平成26年)- 日本交通技術事件(ベトナム・インドネシア・ウズベキスタン)[6]
主な汚職事件の一覧(日本)[編集]
公金横領事件[編集]
- 1872年(明治4年) - 山城屋事件
- 1925年(大正14年) - 陸軍機密費横領問題
- 1947年(昭和22年) - 隠退蔵物資事件(辻嘉六事件、地方検察庁に特捜部が発足する契機となる)
- 1998年(平成10年) - 防衛庁調達実施本部背任事件
詐欺事件等[編集]
- 1903年(明治32年) - 立憲政友会衆議院議員詐欺事件[7]
- 1954年(昭和29年) - 保全経済会事件
- 1965年(昭和40年) - 吹原産業事件
- 2000年(平成12年) - 若築建設事件
- 2013年(平成25年) - AIJ投資顧問事件
- 2015年(平成27年) - 国会議員枠未公開株疑惑[8]
贈収賄・官製談合・利益供与事件[編集]
- 1886年(明治19年) - 開拓使官有物払下げ事件
- 1902年(明治35年) - 教科書疑獄事件(国定教科書導入の契機となる)
- 1908年(明治41年) - 日本製糖汚職事件
- 1908年(明治41年) - 内外石油事件
- 1914年(大正3年) - シーメンス事件
- 1914年(大正3年) - 大浦事件
- 1917年(大正6年) - 官営八幡製鐵所事件[9]
- 1924年(大正13年) - 復興局疑獄事件
- 1926年(大正15年) - 松島遊郭疑獄
- 1929年(昭和4年) - 五私鉄疑獄事件
- 1929年(昭和4年) - 越後鉄道疑獄事件
- 1929年(昭和4年) - 売勲事件
- 1930年(昭和5年) - 京成電車疑獄事件
- 1934年(昭和9年) - 帝人事件
- 1946年(昭和21年)- 板橋造兵廠物資不正分配事件
- 1947年(昭和22年) - 炭鉱国管疑獄
- 1948年(昭和23年) - 昭和電工事件
- 1954年(昭和29年) - 造船疑獄
- 1954年(昭和29年) - 日興連汚職事件
- 1957年(昭和32年) - 売春汚職事件
- 1961年(昭和36年) - 武州鉄道汚職事件
- 1965年(昭和40年) - 東京都議会黒い霧事件
- 1965年(昭和40年) - 九頭竜川ダム汚職事件
- 1966年(昭和41年) - 共和製糖事件
- 1967年(昭和42年) - 大阪タクシー汚職事件
- 1968年(昭和43年) - 日通事件
- 1970年(昭和45年) - 八幡製鉄事件
- 1976年(昭和51年) - ロッキード事件
- 1979年(昭和54年) - ダグラス・グラマン事件
- 1980年(昭和55年) - KDD事件
- 1981年(昭和56年) - 芸大事件
- 1986年(昭和61年) - 撚糸工連事件
- 1988年(昭和63年) - リクルート事件
- 1988年(昭和63年) - 砂利船汚職事件
- 1988年(昭和63年) - 明電工事件
- 1991年(平成3年) - 共和汚職事件
- 1992年(平成4年) - 東京佐川急便事件
- 1993年(平成5年) - ゼネコン汚職事件
- 1996年(平成8年) - 特別養護老人ホーム汚職事件
- 1998年(平成10年) - 大蔵省接待汚職事件
- 1998年(平成10年) - 泉井事件
- 2000年(平成12年) - KSD事件
- 2001年(平成13年) - 中洲カジノバー汚職事件
- 2002年(平成14年) - 業際研事件
- 2002年(平成14年) - 鈴木宗男事件
- 2004年(平成16年) - 日歯連・中医協汚職事件
- 2005年(平成17年) - 橋梁談合事件
- 2006年(平成18年) - 防衛施設庁談合事件
- 2007年(平成19年) - 緑資源機構談合事件
- 2007年(平成19年) - 山田洋行事件
- 2008年(平成20年) - 文部科学省施設整備汚職事件
- 2010年(平成22年) - 広島県呉市交通局事件[10]
- 2014年(平成26年) - 求職者支援制度汚職事件[11]
- 2015年(平成27年) - JR貨物事件[12]
政治資金規正法違反事件[編集]
- 2004年(平成16年) - 日歯連闇献金事件
- 2006年(平成18年) - 山教組事件
- 2007年(平成19年) - 北教組事件
- 2009年(平成21年) - 西松建設事件
- 2014年(平成26年) - 陸山会事件
- 2015年(平成27年) - 小渕優子後援会事件[13]
- 2015年(平成27年) - 日歯連迂回献金事件[14]
脚注[編集]
- ^ 刑法の第193条〜198条なお、汚職の語源は「職をけがす」という意味の「瀆職」(涜職)(とくしょく)であるが、「瀆」が当用漢字に入れられなかったため言い換えられ、「汚職」になった。
- ^ わが国が未批准の国際条約一覧(2013年1月現在) - 国立国会図書館
- ^ 司法汚職、邦人前社長に禁錮3年 - 47NEWS、2012年12月4日。
- ^ 愛知県に本店を置く自動車関連部品製造事業等を営む株式会社の元専務が、中国の現地工場の違法操業を見逃してもらうなどするため、地方政府の幹部に対して、約42万円相当の金銭(香港ドル)及び女性用バッグ(約14万円相当)を供与した(経済産業省2015年7月30日「外国公務員贈賄防止指針」、p34)
- ^ 丸紅、海外贈賄事件でODA排除措置中に、安倍“経済”外遊に同行 巨額罰金支払いも - Business Journal、2014年9月1日。
- ^ 日本交通技術、ODA事業でリベート1.6億円 - Response、2014年4月26日。
- ^ 千葉県選出議員東條良平、同大澤庄之助、同岡山県安井丈夫が有罪となり議員資格を喪失。安井は中国銀行前身会社の一つである岡山貯蓄銀行創立者(立身致富信用公録)。なお同3名は異義を申立てた(帝国議会議事録 )。
- ^ 未公開株疑惑で政治生命をパーにした「武藤貴也」代議士の懺悔録 - 週刊新潮、2015年9月3日。
- ^ 「九州の大疑獄事件:九管、製鉄所、鉱務署の贈収賄」(法律新聞1918年3月10日) - 神戸大学付属図書館)。当時の長官は押川則吉。検事は小原直、小林芳郎、他。
- ^ 広島県呉市交通局の土地入札をめぐり、収賄容疑で呉市幹部を逮捕 - ひろしまスタイル、2010年7月20日。
- ^ 贈賄の法人側3人に有罪判決 求職者支援汚職で大阪地裁 - 産経新聞、2014年9月18日。
- ^ 接待業者を元請けに推薦か・収賄容疑のJR貨物社員 - 朝日新聞、2015年4月11日。
- ^ 政治資金虚偽記載:小渕氏元秘書、起訴内容認める - 毎日新聞、2015年09月14日。
- ^ またも不透明献金の「日歯連」、「政治とカネ」の真相 - 集中、2015年3月5日。
関連項目[編集]
- 腐敗認識指数
- 政府調達に関する協定
- 国家公務員倫理法
- 独占禁止法
- 入札談合等関与行為防止法
- 刑法(談合罪、賄賂罪)
- 入札談合等関与行為防止法
- 競争入札:一般競争入札、指名競争入札、随意契約、総合評価落札方式
- 官製談合、賄賂、 天下り、 利益誘導
- 官庁会計、会計法、 予算決算及び会計令、地方自治法
- 利権談合共産主義、クローニー資本主義(縁故資本主義)
- 特別捜査部(特捜部)
- 特別刑事部(特刑部)
- 不逮捕特権
- 逮捕許諾決議
- 政務活動費
- みそぎ選挙
- 不正選挙
- 共和政ローマの腐敗防止法(Lex Acilia Calpurnia)
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