ユウェナリス

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デキムス・ユニウス・ユウェナリス(Decimus Junius Juvenalis, 60年 - 130年)は、古代ローマ時代の風刺詩人弁護士である。彼が残した詩は痛烈で、現実を些か誇張し歪曲した表現がよく用いられている。

代表作は、16篇からなる『風刺詩集 (Satvrae) 』。その中で「健全なる精神は健全なる身体(しんたい)に宿る」(後述)や「パンとサーカス」などの言葉が用いられている。

「健全なる精神は健全なる身体に宿る」[編集]

『風刺詩集』第10編第356行にあるラテン語の一節;

orandum est, ut sit mens sana in corpore sano

は一般には「健全なる精神は健全なる身体に宿る」(A sound mind in a sound body) と訳され、「身体が健全ならば精神も自ずと健全になる」という意味の慣用句として定着している。しかし、これは本来誤用であり、ユウェナリスの主張とは全く違うものである。

そもそも『風刺詩集』第10編は、幸福を得るため多くの人が神に祈るであろう事柄(富・地位・才能・栄光・長寿・美貌)を一つ一つ挙げ、いずれも身の破滅に繋がるので願い事はするべきではないと戒めている詩である。ユウェナリスはこの詩の中で、もし祈るとすれば「健やかな身体に健やかな魂が願われるべきである」(It is to be prayed that the mind be sound in a sound body) と語っており、これが大本の出典である。

以上の背景から、単に「健やかな身体と健やかな魂を願うべき」、つまり願い事には慎ましく心身の健康だけを祈るべきだという意味で紹介されることがあるが、それも厳密には誤りである。健全な精神については数行に渡って詳細に記述されており、ユウェナリスがローマ市民に対し誘惑に打ち克つ勇敢な精神を強く求めていたことが窺える。

その後しばらくは本来の正しい意味で使われていたが、近世になって世界規模の大戦が始まると状況は一変する。ナチス・ドイツを始めとする各国はスローガンとして「健全なる精神は健全なる身体に」を掲げ、さも身体を鍛えることによってのみ健全な精神が得られるかのような言葉へ恣意的に改竄しながら、軍国主義を推し進めた。その結果、本来の意味は忘れ去られ、戦後教育などでも誤った意味で広まることとなった。このような誤用に基づいたスローガンは現在でも世界各国の軍隊やスポーツ業界を始めとする体育会系分野において深く根付いている。『アシックス』はこの語をアレンジした頭文字を社名にしている。

現在は冷戦も終わり軍国主義を掲げる必要がなくなったことや、解釈によっては身体障害者への差別用語にもなりかねないことから、多くの国では身体と精神の密接な関係とバランスを表す言葉として使われている。

ユウェナリスの詩[編集]

ラテン語原詞 日本語訳
...orandum est ut sit mens sana in corpore sano.

fortem posce animum mortis terrore carentem,
qui spatium uitae extremum inter munera ponat
naturae, qui ferre queat quoscumque labores,
nesciat irasci, cupiat nihil et potiores
Herculis aerumnas credat saeuosque labores
et uenere et cenis et pluma Sardanapalli.

monstro quod ipse tibi possis dare; semita certe
tranquillae per uirtutem patet unica uitae.
(『風刺詩集』第10篇356-64行)

……強健な身体に健全な魂があるよう願うべきなのだ。

勇敢な精神を求めよ。死の恐怖を乗り越え、
天命は自然の祝福の内にあると心得て、
いかなる苦しみをも耐え忍び、
立腹を知らず、何も渇望せず、
そして、ヘラクレスに課せられた12の野蛮な試練を、
サルダナパール王の贅沢や祝宴や財産より良いと思える精神を。

私は、あなたたちが自ら得られることを示そう。必ずや
善い行いによって平穏な人生への道が開けるということを。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

  • 荘子 (書物) - 『寿(いのちなが)ければ則(すなわ)ち辱(はじ)多し』の故事にて、長寿、富、男の子に恵まれるという誰もが望む事を煩わしいと避けたについて、せいぜい君子ではあるが聖人には足りないと批判的に描いている。


外部リンク[編集]