ガストロノミックなフランス料理の魅力のひとつは、他のジャンルにない盛りつけの華やかさ。我らが日本料理の魂は白いごはん。高みを目指す料理人の仕事に迫る。
05.パテシィエ出身、宮崎慎太郎の思いやり──美しく華やかな盛りつけの匠
食卓に運ばれた瞬間に空気が華やぐ華麗な盛りつけ。最後の数分の仕上げに全力を注ぐ、宮崎シェフの料理哲学とは?
ひと口サイズの手の込んだ料理が並べられたアミューズはプティフール(小菓子)のように愛らしく、焼きナスとボタン海老のまわりに色とりどりのソースを点々と配置した前菜はデザートのような華やかさ。宮崎慎太郎さんがつくるコンテンポラリー・フレンチは、魚や肉を使ったものであっても野生味を感じさせることなく、精巧なフランス菓子のような姿で目の前に運ばれてくる。
それはもちろん、宮崎シェフの戦略だ。激しい競争のなかで生き残るには、明確なキャラクターをもつことが大切。そのために「パティシエ出身のシェフの料理」だとひと目で納得してもらえるような盛りつけを心がけているのだという。
それにしても、絶妙な色彩やバランス感覚は、いかにして養われたのか?きっかけは、かつて勤めていた洋菓子店で、店主にいわれたひと言だった。
「今のおまえはセンスがないけれど、センスは磨けるから大丈夫。先輩やシェフの盛りつけをしっかり見て、いいと思ったものを目に焼き付けろ」
後にフレンチに転向してからも他のシェフの盛りつけを見るという視点を持ち続けた宮崎さんは、さまざまな名店で研鑽を積みつつ、多くの美しい料理との出合いを重ねた。そして、ふと気付いたときには、どんな色を使い、どんなバランスで余白を残せば人からきれいといってもらえるかが、わかるようになっていたという。
皿の上に的確にイメージを表現するためには、ピンセットを使って盛りつけることも珍しくない。特に小さなハーブ類を狙い定めた場所に置くときは、指では周りの盛りつけをくずしてしまいそうになるため、ピンセットが必須だ。ソースを四角く置くときには「型」を使うこともあるし、「ジュレ」を使って素材をまとめることもある。例えば、写真のタイラ貝の前菜の皿には、シソの葉のエクストラクトと塩のジュレで巻かれた、野菜と花のサラダが添えられている。
「ジュレで巻けば食べやすくなるかと思ったんです」と、シェフは微笑む。
繊細な盛りつけの背景には、食べ手の目線に立った思いやりが溢れている。
宮崎慎太郎
アジュール フォーティーファイブ料理長
1975年東京都生まれ。パティシエとして洋菓子店に3年勤め、フレンチに転向。都内やパリの名店で修業後、丸の内「オーグードゥジュール・ヌーヴェルエール」料理長として7年連続でミシュラン1ツ星を獲得。2014年5月末より現職。
アジュール フォーティーファイブ
東京都港区赤坂9-7-1 ザ・リッツ・カールトン東京45F
Tel.03-6434-8711(予約受付10:00〜21:00)
営11:30〜14:30 (土日祝ブランチ11:00〜15:00)、
ディナー17:30〜21:00 無休
http://www.ritz-carlton.jp/restaurant/azure