(80) フランス語やラテン語の初歩知識を土台にして、ヨーロッパの諸言語を覚える (2)

• Report rights infringement
• published: 15 Jun 2017
• views: 32

★(1) ラテン語の主格の名詞や形容詞の男性・女性・中性形やその複数形が、いかにその後のロマンス諸語や英語に導入されたか 　　　単数　　　　　　　複数 男性　dominus (主人) - dominī 女性　domina (女主人) - dominae 中性　datum (贈り物) - data datus - datum - data これは、dare (to give) という infinitive (不定形) の過去分詞 (past participle)。なお、このラテン語の dare はスペイン語 dar やイタリア語の dare やフランス語の donner に似ているが、ロシア語の дать にも似ている。これらはすべて同じ Proto-Indo-European (PIE) の単語から派生したものだと思う。 中性名詞単数形の例 curriculum vītae (course of life が元の意味。それが現代英語にも使われている) curriculum は、「走ること、競争路 (course)」という意味。これは、currere (= to run) から来ている。これはのちにフランス語の courir (= to run) として残った。 そしてこの currere の過去分詞が cursus であり、それがフランス語の cours やスペイン語の curso やイタリア語の corso となり、フランス語を経由して英語の course となった。 vītae は、"of life" という意味。vīta (life) という女性名詞の属格 (genitive) である。この vīta は、vīvere (to live) という不定形 (infinitive) から派生した。スペイン語では vida であり、イタリア語では vita。イタリアの有名な映画に "La Dolce Vita" (甘い生活, sweet life) というものがある。森鴎外の小説に「ヰタ・セクスアリス」 "Vita Sexualis" (= Sexual Life) というものがある。vīvere (to live) から、vividus という形容詞が派生し、それが英語の vivid となった。 Latin -us　　-i -a　　-ae -um　 -a Italian -o　　-i -a　　-e Romanian -u　　-i -a　　-a Spanish -o　　-os -a　　-as French garçon - garçons fille - filles Italian ragazzo (boy) -- 　ragazza (grl) ragaggo onesto 　　ragazza onesta ragazzi onesti　　 ragazze oneste Spanish El Niño　　El Niña niño (a male child) 　　niña (a female child) niño honesto 　　　　　 niña honesta niños honestos　　　　　niñas honestas ★(2) -abilis, -ibilis というラテン語の形容詞語尾がどのようにロマンス諸語や英語に伝わっていったか 　　　　 　amare　　　 adorare　　　　posse Latin　　　amabilis　　adorabilis　　possibilis Italian　　amabile　　　adorabile　　 possibile Spanish　　amable　　　 adorable　　　posible Romanian　　amabil　　　adorabil　　　posibil French　　　aimable　　 adorable　　　possible English　　amiable　　　adorable　　　possible ★(3) -ivus というラテン語の形容詞語尾がどのようにロマンス諸語や英語に伝わっていったか Latin　　　relātīvus / -a　　　　　actīvus / -a Italian　　relativo / relativa　　attivo / attiva Spanish　　relativo / relativa　　activo / activa Romanian　　relativ / relativă　　activ / activă French　　　relatif / relative　　actif / active English　　relative　　　　　　　　active ★(4) 副詞を作る -ly という意味の -ment, -mente English　　　clearly　　　clear French　　　clairement　　clair / claire Spanish　　　claramente　　claro / clara Italian　　　chiaramente　　chiaro / chiara Romanian　　clar　　　　　clar / clară Latin　　　clarus - clara + mens (feminine, 精神・心・考え) mens の ablative (奪格、「～から、～によって」）が mente である。mente とは、「考えによって」という意味。したがって、clārā mente とは、"with a clear mind" という意味。したがって、chiaramente というイタリア語の元の意味は、with a clear mind という意味。mens (mente) は女性名詞だからこそ、-ment, -mente の前に来る形容詞は、常に女性形にしないといけない。 その他の例 Italian fisicamente, stupidamente, grandemente ★(5) ラテン語の過去分詞 (past participle) の作り方が、のちのロマンス諸語にどのように反映されていったか 　　　　infinitive　　　masc./fem.　　　neuter Latin　　　amāre　　　　amātus / -i　　　amāta / -ae　　　amātum / -a　　 Italian　　amare　　　amato / -i　　　amata / -e Spanish　　amar　　　amado / -os　　　amada /-as　　　controlar, controlado Romanian　　iubi (cf. любить)　　iubit / -ţi iubită / -e　　　controla, controlat French　　　aimer　　　aimé / aimés　　aimée / aimées　　　contrôler, contrôlé English　　　to love　　　loved　　　control, controlled German　　　lieben　　　geliebt　　　kontrollieren, kontrolliert なお、ラテン語とイタリア語については、僕の辞書には controlare やそれに似た動詞は見つからなかった。 ルーマニアは、600年間ものあいだスラブ語の影響のもとにあったので、ルーマニア語にはスラブ語の影響が色濃く残っている。 Wikipedia の記事より（ただし、Wikipedia の記述が正しいかどうかは、僕は知らない。） While Dacia (現代のルーマニアのこと) was part of the Roman Empire for less than two centuries, various Slavic tribes crossed, ruled and settled the former Roman province from the 6th to the 12th centuries. https://en.wikipedia.org/wiki/Slavic_influence_on_Romanian ルーマニア語におけるスラブ語の発音の影響の一例 "to exist, to be" という意味のロシア語 есть と、ルーマニア語における "tu eşti" (フランス語の tu es やドイツ語の du bist に相当) の eşti は、ロシア語の音にそっくりである。これは、断じて他のロマンス諸語にはない音である。おそらくは西側ヨーロッパのどこにもない音だろうと思う。スラブ語特有の音だ。このようなスラブ語特有の音の特徴を palatalization (口蓋化) と呼ぶ。（ビデオの中では間違って、labialization とか何とか、変な言葉を口走ってしまっていた。）