原発危機…そのツケは誰に?

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東京電力福島第一原発での事故の被害が最終的にどのくらいになるのかはまだわからない。7万人が避難を強いられ、自由に自分の持ち物を取りに帰ることさえできずにいる。30キロ圏内では、さらに17万人が屋内退避を指示されており、20キロ圏外の住民も、いつ計画避難地域に指定されるかわからない状況だ。原子炉の安定化には数ヶ月かかるといわれる中で、いつ帰宅できるか、まったくめどは立っていない。事故の後何年も、住めなくなる地域がでてくる可能性もある。出荷停止処分や風評被害により、何千人もの農漁業従事者の生計手段が断たれている。「専門家」による長期的な健康被害については議論があるものの、少なく見積もっても、以後数十年にわたり何千人もの人が事故の直接的な影響により、癌で死亡するといわれている。原子力産業に批判的な研究者の言い分が正しければ、その数は数万人から数十万人となる可能性もある。

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神の仕業?

東電や政府官僚を含む原発容認派は、これは自然災害であり、想定外であったと言っている。「福島第一原発に被害を与えたような、5mを超える津波は千年に一度しか起こらない」と言うが、これはまったく正しくない。地震学者はこのような災害の可能性を、何年も前から指摘していた。1896年の明治三陸地震でも1933年の昭和三陸地震でも、いずれも20mを超える大津波に見舞われた。424日付朝日新聞によると、2006年に東電自身の研究チームが、福島第一原発に、設計の想定である5.7mを超える津波が来る確率を「50年以内に約10%」と米国で開かれた原子力工学の国際会議で報告していた。

免責?

では、このように企業が忘れたふりをするのは、どういうことか?東電の役員、主要株主と保険業者は、政府が、「異常に巨大な天災地変」や社会的動乱の場合は事業者の賠償責任を免除するとした1961年の原子力損害賠償法を適用することを期待している。今のところ、政府は免責の可能性を否定しているが、どうなるかはまだわからない。国際連帯は、そのような免責には断固反対である。東電の役員や主要株主は、事故による被害について、責任を問われるべきである。さらに、1961年の原子力損害賠償法の撤廃を求める。地元住民、農業・漁業従事者は、今回の事故により生じた損害を全額補償されなければならない。

東電の「コストカッター」

東電社長の清水正孝氏は、2007年の柏崎刈羽原発全面停止により損失を出した直後の2008年に社長に就任。その狙いは、2010年度の東電の財務報告に明らかに示されている。「アニュアルレポート」によると、「費用削減についても、グループを挙げて全力で取り組み…」とある。さらに、その例として、「例えば、点検業務に関する費用削減についても、単に点検を先送りするのではなく、個別の機器ごとにどの程度のインターバルでの点検が適正なのかをきめ細かく診断することにより点検回数を減らす…」と続く。ここには書かれていないが、事故直前の228日に東電が原子力安全・保安委員会に提出した報告書によると、福島第一、第二原発、柏崎刈羽原発で非常用電源等の重要な機器を含む171の機器の点検に遅れや点検漏れがあったとのことで、これも東電の革新的な原価低減策の一環だったのかもしれない。東電は、柏崎刈羽原発の教訓を生かし、自社の研究チームの報告でも必要とされた地震による危険に対する追加安全対策にお金を使う事より、株主への安定配当を優先したのだ。この財務戦略は功を奏したようで、2010年には、一株当たり60円の配当を確保している。地震の後、海水注入が遅れたのも、東電が廃炉を避けたかったからだと言われている。言い換えると、あの危機的状況でなお自分たちの利益を守るために、何百万人もの健康を危険にさらしたのだ。安全を優先せず、株主の利益を最大限確保することに重きを置くような人たちに、何百万もの人の安全をまかせることはできない。

政府の責任

事故の責任はまず東電にあるものの、これまで企業優先の政策を続けてきた歴代の自民党・民主党政権にも重大な責任がある。太陽光発電などの代替エネルギー開発に十分な予算を与えず、資源の多くを原子力発電に注ぎ込んできた。原子力発電を推進してきた経済産業省にも、原発の安全性を軽視してきた責任がある。東電がこれまでお咎めなしでやってきたのは経済産業省の官僚とのなれ合いの関係があったからだ。緩いとはいえ、電力会社に「極めてまれではあるが発生する可能性」のある地震や「それに伴う事象」に対して備えるよう求める指針はあるものの、既設の原発については電力会社に評価を指示するだけで、改善を強制するものではない。経済産業省と東電とのなれ合い関係は、石田徹・元資源エネルギー庁長官が退職後東電に天下って、顧問として少なくない報酬を得ていたことにもよく表れている。

費用負担は誰が?

政府や企業寄りの主要政党は、東電を独占民間企業として保持し、今回の原発危機の復旧・補償費用を日本の労働者に回すことで、投資家の将来の配当を守ろうとする方針であることは明らかだ。過酷な環境で災害収拾に力を尽くしている作業員の方々の勇気を世界中のメディアが称賛する中、東電は社員の年収の約2割カットを決定した。今回の災害の責任は、東電の労働者ではなく、経営陣や経営陣を選んだ主要株主にあるのに、である。

現在のところ、菅政権は東電を潰さないために、おそらくは無金利あるいは低金利融資といった形で、税金を使おうとしているようだ。他の電力会社も東電を支援するために何らかの負担を求められることになるかもしれない。公益事業者は地域独占となっているため、結局この費用は一般消費者に電気代値上げという形で回って来る。そして電力会社は、独占した利益をマスコミでの広報など、原発推進のために使い続けるだろう。経営陣の顔ぶれは変わるかもしれないが、利益率を回復するために、さらにコストを削減しようとするプレッシャーがかかるだろう。国際連帯は、東電だけでなく、国内の電力会社10社すべてを、必要性が証明された最低限の補償のみで、国有化すべきだと考える。大企業の利益のために官僚が運営するのでなく、労働者による民主的な管理運営とするべきだ。これが安全と消費者を優先する唯一の道だ。

エネルギー産業が国有化されれば、労働者組織や市民グループの監視下で安全、オープンに廃炉を進め、原発をなくしてゆくことが可能になる。また、省エネ政策のみならず、太陽光、風力、地熱エネルギーなどの再生可能エネルギーの実用化にむけて、大規模な投資計画も可能になる。そして、今のように東西で分断されずに、東日本と西日本の間で送電が可能な、本当の意味での全国送配電網を構築することもできるようになろう。

右派の大企業優先の政党が、このような政策を支持することは期待できない。現在の危機は、経営側から独立したたたかう労働者組織、そして、独占企業の支配に終止符を打ち、民主的な社会主義の日本をつくるためにたたかう新しい労働者の政党の必要性を示している。

 

  • 東電に原賠法の免責条項適用はするな!
  • 避難を強いられた住民、農漁業従事者に全額補償を!
  • 災害の原因と健康への影響について、労働運動と市民グループによる独自調査を!
  • 電力業界、そしてその他の業界で経営側から独立したたたかう労働組合を!
  • 全電力会社を最低限の補償で国有化し、労働者による管理運営下におくこと
  • 官僚とのなれ合いを断ち切り、労働者による管理運営に!
  • 原発新設計画は撤廃せよ!
  • 運転中の原発は廃炉に!他の燃料への切り替えを。
  • 太陽光、風力、波力、地熱等の再生可能エネルギーによる発電への大規模投資計画を!
  • 大企業支配に終止符を!
  • 日本を変える社会主義綱領に基づく新しい労働者の政党を!