ステロイド
ステロイド外用剤には、副腎皮質ホルモンにより過剰になっている免疫反応を抑制し、症状を和らげる効果があります。
外用剤にはランクがあり、「Weak」「Medium」「Strong」「Very Strong」「Strongest」に分けられ、症状の度合い・炎症の発生部位によって使い分けます。
ステロイド外用剤は薬局・薬店などで入手できるものもありますが、強いランクのものは医師の処方箋を必要とします。
長期使用すると皮膚萎縮、皮膚感染症の誘発、毛細血管拡張などの副作用が生じることもあるので、注意が必要です。
しかしながら、治療が困難な患者やアトピービジネスがステロイドの弊害を過剰に主張したり、内服薬の副作用を外用薬のそれと混同することもあり、治療現場は混乱しています。
日本皮膚科学会で示される治療ガイドラインによると、ステロイド外用剤の中止によるリバウンド(Rebound effect)に関する言及はありません。
症状が重く QOLが著しく低下している場合は内服薬を服用したり、密封塗布や皮下注射を行ったりすることもあります。
プロトピック(商品名・軟膏)
プロトピックとは、1993年から治験として使われ始め1999年6月に認可された、タクロリムスという免疫抑制剤を外用剤として製剤したものです。
元々臓器移植手術の際に用いられてきたものだが、その濃度を0.1%にして外用剤にしており、ステロイドの「medium」程度の強さではないかと言われています。
特に顔面や頸部において効果が高いとされ、ステロイドの副作用が出やすい部位でもあることから、好んで処方されています。
プロトピックは分子量が大きいため、正常な皮膚には作用せず、炎症が強く壊れた皮膚にのみ浸透していきます。
使用開始初期にヒリヒリとした刺激感や火照りを感じる人もいるが、皮膚が慣れてくるにつれて徐々に治まるでしょう。
副作用としては…。
- ニキビの増悪があります。
- カポジ水痘様発疹症の発生率が高くなるとの報告がある。
- マウスの実験で悪性リンパ腫の増加があるという報告がある。
メーカーでは、人間に使用した場合の影響はないと説明しているが、動物実験を根拠に危険を主張する人もいます。
精確な評価には多数の使用者を長期追跡することが必要であるため、完全な結論には時間が必要と言われています。
なおFDAは発ガン性への懸念から、処方を必要最小限とするように警告を出しています。
保湿剤
アトピー性皮膚炎患者の皮膚は、明確な病変部位外にも、乾燥した特異な性状を示すことがあります。
乾燥部位からは皮脂やセラミドが失われ、外部からアレルゲンの侵入を容易にしていると考えられています。
炎症に対する治療だけでなく、このような皮膚の性状に対処することもまた、治療の根幹であります。
スキンケアを丹念に行うことにより劇的に改善することもあるため、ステロイド外用剤などだけでなく、保湿剤を使用することは重要です。
実際の処方では、ワセリン等の油性のものや、適度に水分を含んだクリーム状の保湿剤(ヒルドイドソフト等)がよく処方されます。
医療機関で処方されるものだけでなく、薬局・薬店で購入できるスキンケア製品でも効果が期待できます。
ただし患者の敏感な皮膚は製品によっては接触性皮膚炎を起こすこともあり、使用感がよく、かぶれを起こさない製品を選択することが重要です。最初はいろいろ試して、自分に合う保湿剤を探索するのも良いですね。
合併症について
皮膚疾患
アトピー性皮膚炎体質の人は一般的に皮膚が弱く、子供の頃におむつかぶれを起こしやすかったり、化粧品、塗り薬、洗剤などによる接触性皮膚炎を起こしやすいことが知られてます。
また円形脱毛症の合併も知られてます。
感染症
細菌に関しては、重度の湿疹病変から進入した黄色ブドウ球菌などによる伝染性膿痂疹をとくに幼児期において合併することが多いようです。
伝染性軟属腫などのウイルスによる皮膚疾患に感染しやすく、アトピー性皮膚炎患者が単純ヘルペスを罹患すると重症化することがわかっています。
眼科疾患
最近では白内障や網膜剥離を合併するケースが増えてきています。
網膜剥離に関しては、特に顔面の症状が酷い際の掻破、顔をたたいてかゆみを紛らわせる行動などの物理的な刺激の連続により発生すると考えられています。
白内障の原因は網膜剥離と同様、顔や瞼の痒みから強く擦ったり叩いたりするから、また、水晶体は発生学的に皮膚細胞と同じ分類に入るため、アトピー性皮膚炎と同様な病変が起こるのではないか、などといった説があります。
いずれにしても、加齢に伴って発症する通常の老人性白内障とは異なる原因で発生すると考えられています。
また、水晶体が皮質からではなく核から濁ってゆく事が多いという症状のパターンの違いから、「アトピー性白内障」と呼ばれることもあります。
ステロイド内服の副作用として白内障があげられることから、原因としてステロイド外用剤の副作用が疑われましたが、外用剤との因果関係は不明であること、内服薬の副作用として発生する際は、白内障ではなく緑内障の発生率のほうが高いにもかかわらず、外用剤のみで治療されているアトピー性皮膚炎患者では緑内障が少ないという矛盾があることから、ステロイド外用剤は直接白内障とは関連がないとの結論に至っています。